国立劇場の11月歌舞伎公演(2020年11月2~25日)は二部構成で、第一部は中村吉右衛門さん、尾上菊之助さんが出演する「平家女護島-俊寛-」を、第二部は片岡仁左衛門さん主演の「彦山権現誓助剣-毛谷村-」と中村梅枝さんら若手俳優による舞踊「文売り」「三社祭」を上演する。二部「毛谷村」に出演する片岡仁左衛門さんと片岡孝太郎さんに演目の見どころや意気込みを聞いた。
【あらすじ】
豊前国(福岡県)彦山の麓、毛谷村に住む六助は、武芸者で人のよい男。母の墓前で四十九日を弔っていると、微塵弾正と名乗る浪人が現れ、老い先短い母のため、予定している六助との試合に勝たせてほしいと懇願する。母への思いに胸を打たれた六助は、申し出を快諾。その帰り道、六助は山賊に襲われる男と子どもを助けるが、男は死んでしまい、残された幼い弥三松(やそまつ)を家に連れて帰って世話をする。
数日後、六助の家で試合が行われ、約束通り弾正に負けた六助。弾正は六助の眉間を割って大威張りで去って行くが、六助は怒らずに見送る。そこへ、旅の老婆と虚無僧姿の女が、順番に訪ねて来る。
女は、弥三松の伯母のお園。父の敵を追って旅をしており、甥をさらったと誤解して六助に斬りかかるが、六助の名前を聞くと急にしおらしくなった。実はお園は、六助の剣の師匠の娘で、名だけ聞いていた許嫁。そして先に訪れた老婆は、師匠の妻・お幸だった。二人から、師匠が闇討ちにあったと聞き驚く六助。その犯人が弾正だと知った六助は……。
「彦山権現誓助剣」は天明6年(1786年)に人形浄瑠璃で初演され、六助は九州に移り住んだ剣豪・宮本武蔵をモデルにしたとも言われている。「毛谷村」の場面は、心優しい六助が、弾正の非道さを知って激しく憤り、敵討ちに向かうストーリーの中に、許嫁のお園との純朴な恋模様もユーモラスに描いている。
主人公の六助を仁左衛門さんが、お園を孝太郎さんが演じる。六助について、仁左衛門さんは「誠実、純朴、そして親思い、師匠思い。人を助け、とにかく善良で汚れを知らない、本当に理想的な男性」とし、「そういう人だからこそ、裏切られた時の怒りは普通の人よりも大きいと思います。そういうところを大事に演じたいです」と話す。
敵と知らず、弾正の頼みを聞く墓所のシーンから、物語は次々に展開していく。「おばあさんが、そして女性が訪ねて来て、それぞれがお母さんになり、嫁になる。次から次へと変わる話の面白さ、役者のセリフ回しやリズム感といった歌舞伎の演技法、非常に純真な男がお園と出会い、怒り、敵討ちを決意する、そのたびにギアが変わっていくという人物像……理屈ではない歌舞伎の雰囲気も合わせて、お客様に楽しんでいただきたい」と仁左衛門さん。
ラストシーンで六助は、お幸とお園から梅と椿の枝をもらって背中に差し敵討ちに向かうが、舞台上の人々の表情は明るく、どこか爽やかさが残る幕切れだ。仁左衛門さんは、「本来の内容は仇討ちという暗いものですが、このお芝居は最後に、お客様が気持ちよくなっていただける、劇場を去られる時にウキウキとした気持ちになれる、そういったものが大事だと思いました」と、この時期にあえて毛谷村を選んだ理由を語った。
孝太郎さんはお園について「はじめは男装で、男のつもりで出てきて、見破られると強い剣豪の女性に、そこから独身のかわいらしい女性、娘と、お園は色々な面を持っている」と話す。「お園は父親から、お前はこういう人と結婚すると聞かされていても会っていなくて、偶然に、しかも今さっきまで殺そうと思っていた人の名前を聞いて、『あれ?、えっ!』と気づく。その時の細かい気持ちの受け取り方、変わり方をしっかりとお客様に伝えられればと思います」
父親である仁左衛門さんの六助に対して、お園をつとめるのは3回目。親子共演の多い孝太郎さんだが、「父は妥協しないと言いますか、もしかしたら、こうした方が面白いのではないかと思ったら、それが千穐楽であってもやる。『今日はこうしよう』『次はこうやってみたら』というアドバイスをもらいます。本当にあくなき追究心を持っている。父の思いをくみ取って、お客様とのコミュニケーション、キャッチボールができたらと思っています」と気を引き締める。
今回の公演では、中村梅枝さんの長男・小川大晴さん(5)が初お目見えし、弥三松をつとめる。仁左衛門さんは「私も父(十三代目片岡仁左衛門)の舞台で弥三松を演じ、孝太郎もつとめた。今度は(中村)時蔵くんのお孫さん、梅枝くんのお子さんが弥三松を演じる。歌舞伎が受け継がれていくというのは、本当に素敵だと思います」と笑顔を見せた。
取材会では、歌舞伎の公演が中止となった時期への思いや過ごし方の質問が相次いだ。仁左衛門さんは「私の場合は、(以前、病気で)丸1年お休みをしましたし、関西にいた頃は、いつ歌舞伎が行われるかもわからない時期がありましたから、特別にどうこうというのはなかったです」としながらも、「この娯楽文化がどうなっていくのかは心配でした。3月はいけるだろう、4月の巡業はいけるだとうと思っていたのがどんどん中止になり、ここまで大きくなるのは、誰も予想できなかったと思います。大変不安を感じました」と振り返った。
さらに、「役者は舞台に立たねば何の値打ちもない。演技は、年を取ったから良くなるというものではなく、その間に舞台を続けるから進歩があるわけで……。舞台に再び立てたときに皆さまにがっかりされないようにと、普段から心がけて暮らしていました」と語り、孝太郎さんは「関西で歌舞伎がなかった時代を知っているので、父も、(片岡)秀太郎の叔父も、2人とも動じていなかったですね」と付け加えた。
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2020/21110.html
(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来、写真:園田寛志郎)
開催概要
日程
2020.11.2〜2020.11.25
【第一部】12時開演(午後2時20分終演予定)
【第二部】午後4時30分(午後7時終演予定)
※開場は開演の45分前の予定
※10日(火)・18日(水)は休演
国立劇場大劇場
東京都千代田区隼町4−1
1等席 7,000円(学生4,900円)
2等席 4,000円(学生2,800円)
3等席 2,000円(学生1,400円)
お問い合わせ
国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
0570-07-9900
03-3230-3000[一部IP電話等]
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