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2020.11.12

【歌舞伎 文売り・三社祭】梅枝「使命感感じる演目」鷹之資・千之助「『僕たちならでは』を」

出演する中村梅枝さん、中村鷹之資さん、片岡千之助さん(右から)

国立劇場の11月歌舞伎公演(2020年11月2~25日)は二部構成で、第二部の後半は中村梅枝さんの「ふみ売り」、中村鷹之資さんと片岡千之助さんの「三社祭さんじゃまつり」の舞踊2本を上演する。梅枝さん、鷹之資さん、千之助さんに演目の見どころや意気込みを聞いた。また、長男の小川大晴ひろはるくんの初お目見えを迎えた梅枝さんが、息子への思いも語った。 

父が大切にしてきた踊りを…感じる使命感 
文売り(梅枝):国立劇場提供

【文売り】

縁起物の懸想けそう文(恋文)を売り、恋を取り持つことを仕事とする女が登場して、くるわの中での恋の話を舞い踊る。勝美と小田巻という遊女が1人の男を巡り、取っ組み合いの大喧嘩げんかをする――という物語だ。 

「お前の大事な人を今日から私に下さんせ」と詰め寄る小田巻に、「もう100年もたった後」、熨斗のしをつけて差し上げると勝美がはねつけるなど、時にセリフも交えながら、清元節にあわせて生き生きと描写する。後半には、騒動に巻き込まれる関係者や猫、イタチなどの動物も登場する。山伏や動物のしぐさなど、それぞれの踊り分けも楽しい。「大立ち回りもある華やかな舞踊。お客さまに良い気持ちで帰っていただきたい」と梅枝さん。 

「文売り」は、衣装や詞章などが、近松門左衛門が手かげた「嫗山姥こもちやまんば」というお芝居との関連性があり、梅枝さんは、「嫗山姥も文売りも、うちの家(萬屋)にとっては大切な演目です」と意気込む。「父(中村時蔵さん)は若くして親(祖父)を亡くしたため、曽祖父(三代目時蔵)と祖父(四代目時蔵)の芸を覚えていた古いお弟子さんの(中村)時蝶さん(2016年に死去)に習ったそうです。父がとても大事にしているのを見てきたので、いつかやりたい、やらなくてはいけないという使命感もありました」と明かす。 

今回が初めての挑戦。「父からの指導は特にありませんでしたが、嫗山姥は(上方の)義太夫で、文売りは江戸浄瑠璃の清元なので、味が違うと教えてくれました。いつか自分のものにしたい演目です」と語る。 

20代・フレッシュなコンビが軽快に洒脱に 
三社祭 右から悪玉(鷹之資)、善玉(千之助) :国立劇場提供

【三社祭】

浅草の観音信仰の始まりとなる観音像をすくいあげた漁師の伝説が残る、浅草・宮戸川。二人の漁師がはやり歌に合わせて踊っていると、上空に黒い雲が垂れ込め、人間の心を操るという「悪玉」「善玉」が二人に取り付く。2人は、悪と善、男と女などになり、名前に「悪」の字を持つ武将をまねたり(悪づくし)、三味線と語りになって男女の恋模様を舞ったり。最後は幕末に流行した、曲芸のような振りのある「悪玉踊り」を踊り、「悪玉」「善玉」から解き放たれる。 

「善」と「悪」と書かれたユニークな面をかぶり、2人の男が軽快に、洒脱しゃだつに踊る「三社祭」。多くの名優が取り組んだ踊りに、中村鷹之資さんと片岡千之助さんの20代の若手コンビが挑む。2018年の京都・南座に続いて2回目だ。 

悪玉役の鷹之資さんは「コロナ禍で歌舞伎の公演も大向こうがなくなったり、客席が半分になったりと今までにない状況になっていますが、お客さまが少しでも楽しく、晴れやかな気持ちになっていただけるよう、精いっぱい元気よく勤めたい。ゆかりの江戸でできるのがうれしいです」と語り、善玉役の千之助さんは「2年前はまだ10代で、しかも京都の顔見世でやるというプレッシャーの方が強かったのですが、今回は余裕を持って、よりパワフルな踊りをお見せしたい」と力を込める。 

亡き父・富十郎さんとの思い出の演目 

鷹之資さんは、2011年に亡くなった父・五代目中村富十郎さんが、赤ん坊だった鷹之資さんをあやすときに「三社祭」をうたってくれたエピソードを明かし、「ほかに子守歌を知らなかったんでしょうが……」と笑いつつ、「僕は生で見ることはできませんでしたが、父も生前、何度も舞っていて、その映像を見ていつかはやりたいと憧れていました。大好きな清元で踊らせていただいて、うれしい限りです」と笑顔で話した。 

また千之助さんは、祖父の仁左衛門さんから「踊りの振りも、リアルに表現するように」というアドバイスを受けたと言い、「芝居っ気を大切に、ただ踊るだけでなく気持ちを入れて挑みたい」と意気込んだ。 

「鷹之資くんは太陽みたいな人で、素は悪と言うよりは全くの善。自分より一つ年上なので、甘えているところもあるかも」と千之助さんが言えば、鷹之資さんは「僕は興奮してしまうとハプニングを起こしがち。そんな時も、千之助くんは優しくて助けてくれて……本当に優しいです」と思いやるなど、舞台だけでなく取材の場でも息のぴったりな二人。「僕たちならではの三社祭をお見せしたい」と声をそろえた。 

長男の舞台に感じる成長 

二部の前半、「彦山権現誓助剣ひこさんごんげんちかいのすけだち毛谷けや村-」には、梅枝さんの長男・大晴くんが物語の鍵を握る弥三松役で出演している。 

梅枝さんによると、出演の話が来たのは9月末。「そこから1か月稽古をやって、初日まで心配でしたが、音をよく聴いて、時には言葉で教えていないことも彼なりに考えてお芝居をしている。よくやっていると思いますし、正直、ここまでできるとは想像していなかったです。成長しているんだなと、彼の姿に教えられることも多いです」と話す。 

歌舞伎は、自宅で映像を見るよりも劇場で観劇することが多いという大晴くん。「歌舞伎が好きなんですよね。同じ楽屋ですが、芝居が終わった後の方がテンションが高くて……」と梅枝さんが苦笑すると、鷹之資さんは「大晴くんは、舞台の袖で僕たちの踊りも毎日のように見てくれて。以前、お稽古で一緒になった時も、ほかの方の稽古を見てまねをしたり、本当にかわいいな、歌舞伎が好きなんだなと思いました」と目を細めた。 

仁左衛門さんに抱かれて 
さわやかな幕切れ。毛谷村六助(仁左衛門)と弥三松(小川大晴) :国立劇場提供

毛谷村の幕切れで、大晴くんは仁左衛門さんの六助に抱かれ、手を伸ばして立派に見得を決める。客席からは惜しみない拍手が送られる。 

「今回の出演は、松嶋屋のおじさま(仁左衛門さん)に言っていただきました。大晴は京都で生まれまして、その後(2か月後に)京都の顔見世に出られていたおじさまに会わせて、抱っこしてもらったんです。今日も幕切れでおじさまに抱っこしてもらっているのを見て、なんだか感慨深かったですね。(仁左衛門さんは)近い親戚ではありませんが、うちの子を気に掛けてくださって……歌舞伎は家族だなと、息子ができてなおさらそう思いました」 

公式サイトはこちら

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2020/21110.html

チケットの購入は国立劇場チケットセンター へ

https://ticket.ntj.jac.go.jp/

(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)

開催概要

日程

2020.11.2〜2020.11.25

【第一部】12時開演(午後2時20分終演予定)
【第二部】午後4時30分(午後7時終演予定)
※開場は開演の45分前の予定

※10日(火)・18日(水)は休演

会場

国立劇場大劇場
東京都千代田区隼町4−1

料金

1等席 7,000円(学生4,900円)
2等席 4,000円(学生2,800円)
3等席 2,000円(学生1,400円)

お問い合わせ

国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
0570-07-9900
03-3230-3000[一部IP電話等]

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