2019.8.9

【歌舞伎 天竺徳兵衛韓噺】<上>本物の妖術? 江戸っ子もびっくりの大スペクタクル

音聞天竺徳兵衛 明治24年(1891年)8月 仙台座、歌川国梅画、応需 豊原国周筆、国立劇場蔵

東京・国立劇場の10月歌舞伎公演(10月2日~26日)は、「天竺徳兵衛てんじくとくべえ韓噺いこくばなし」を、中村芝翫しかんさんの主演で上演する。屋敷を押しつぶすほどの大蝦蟇がまの出現や、瞬時に別の登場人物になりかわる「早替わり」など仕掛けの連続に、初演の江戸時代には「(禁制の)バテレンの妖術を使っているのでは」と怪しまれ、奉行所が取り調べたというエピソードも残る。様々な趣向がちりばめられ、ひとときも目を離せないスペクタクル劇の見どころを紹介しよう。

あらすじ

時は室町時代。将軍家の重臣である佐々木家ではお家騒動が起こっていた。異国をまわり天竺(インド)から帰国した船頭の徳兵衛は、佐々木家の家老・吉岡宗観と出会う。宗観は、自らは日本転覆をもくろむ大明国の遺臣で、徳兵衛は実の息子だと告げる。実父から蝦蟇の妖術を譲り受けた徳兵衛は、父の遺志をついで日本転覆を狙う。

江戸でロングランの大ヒット作

「天竺徳兵衛韓噺」は、鎖国前の江戸時代初期、東南アジアの国々をまわって見聞録を残した播州国(兵庫県)の実在の人物・徳兵衛をモデルにしている。狂言作者、四世鶴屋南北(1755~1829年)の出世作だ。南北は幽霊の「お岩さん」が登場する「東海道四谷怪談」などを著し、今年は没後190年にあたる。

初演は江戸時代後期の文化元年(1804年)。国立劇場の渡邊哲之・歌舞伎課長は、「演劇の世界では客が入りづらいと言われる夏芝居で、ロングランになるほど人気になった」と説明する。戦後も名優らの手によって繰り返し上演されてきた。通し上演は20年ぶり。

目を引くのは奇想天外な仕掛けの数々だ。渡邊さんの一押しは、徳兵衛の妖術によって屋敷の屋根の上に巨大な蝦蟇が現れるシーン。「徳兵衛が上に乗り、蝦蟇を使って舞台上を混乱に陥れる。重みで柱が折れ、屋敷が崩れていく『屋体崩し』の仕掛けも見逃せません。最近の蝦蟇はリアルなカエルのように作ることが多いのですが、今回はあえて古風な、江戸時代の蝦蟇を再現しようと考えています」

その次のシーンでは、蝦蟇に変身した徳兵衛と捕手とりてたちとの立廻たちまわりが続き、最後には徳兵衛が蝦蟇から人間に戻る。「人間の格好に戻った後のかっこいい姿、そこからカエルが水中を進む様子をイメージした『水中六方』も見どころ。六方は足を踏み鳴らすなど勇ましい演技ですが、水中のイメージなので足音を立てないように進むんです」と明かす。

驚きの早替り

初演時に「本物の妖術を使っているのでは?」と疑われたのが、徳兵衛が瞬時に別の役に変身する「早替わり」だ。物語の大詰めで、徳兵衛は目の見えない座頭に化けるが、正体を見破られ、泉水の中に飛び込み逃げていく――というストーリー。舞台では、実際に水を使って泉水を表現する。

泉水に飛び込むやいなや、今度は全く違う衣裳、化粧の人物にふんして別の場所から堂々と現れる。「広い国立劇場なので、移動するだけでも大変ですが、舞台機構も含め工夫を重ねており、今回も皆様をあっと驚かせたいです」

江戸っ子も奉行所も驚かせた奇想天外な仕掛けの数々。南北ゆかりの秘伝のアイデアに、現代の技術を組み合わせ、よりスケールアップさせた本作は、セリフや小道具などの細かな点にも見どころが多い。

〈下〉では、配役も詳しくご紹介。今回の公演ならではの情報をお届けする。お楽しみに。

(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)

あわせて読みたい

【歌舞伎 天竺徳兵衛韓噺】<下>せりふに時代映す…現代に「活きる」歌舞伎の面白さ

Share

0%

関連記事Related articles

編集部からFrom the Editor

一覧ページへ