奈良時代、苦難の末に仏教の戒律を日本にもたらした唐の高僧・鑑真和上ゆかりの唐招提寺。境内の木立は例年にも増して色濃く、
「人間の経済活動が制限されたからでしょうか。空気が澄んで、動植物が生き生きしているように感じます」。石田太一・副執事長(53)は話す。秋の訪れを告げるハギも、ちらほら咲き始めた。
風情に富む境内は、北原白秋や井上靖ら多くの文人を魅了した。最近は年間30万人の参拝者でにぎわっていたが、コロナ禍でこの夏は訪れる人も少ない。
「拝観料に頼った寺院のありようを見直し、仏教が求める清浄で安らかな世界を考える機会なのかもしれません」。石田副執事長は、そう思っている。
鑑真は、大陸から先端医療の知識も伝えた。寺は境内の一角に、ゆかりの生薬を集めた「薬草園」を再興する計画を進める。あまり知られていない鑑真のもう一つの足跡に、思いを巡らせてほしいという。
2020年8月20日付読売新聞から転載
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