2020.2.27
文化庁は2月20日、「企業の文化投資は経済界・文化界に何をもたらすのか」と題したシンポジウムを東京・六本木の国立新美術館で開いた。
文化庁は、2017年12月に「文化経済戦略」を策定。国や自治体、企業などが文化・芸術分野への投資を行うことによって新たな価値を生み出し、それらが文化・芸術に再投資される「文化と経済の好循環」の実現を掲げている。
この日のシンポジウムでは、前文化庁長官の青柳正規・多摩美術大学理事長や、自動車大手のマツダでデザイン部門を統括する前田育男常務執行役員らが登壇。芸術やアートを切り口に企業活動を活性化させたり、新たなイノベーションを起こしたりする工夫について議論を深めた。
前田氏は、マツダが生産するクルマのデザインに、日本の伝統的な美や工芸の要素を取り入れ、海外でも高い評価を得ていることを紹介。「CAR as ART(クルマはアート)」とのテーマを掲げ、こだわりのクルマづくりに取り組んでいると説明した。
具体的には、伝統工芸の漆芸の専門家と数か月にわたって共同制作に取り組み、オフィスに入ってもらうなどして伝統工芸の作り方を学ぶことで、光の取り入れ方などにクルマ作りのヒントを得たという。「お互いに刺激を受け、化学変化のようなことが起こった。自動車産業は成熟市場だけに、日本らしさや固有のものづくりのノウハウ、技術にもっと重きを置いて、日本でしか作れないプロダクトを探すべきだ」と意義を強調した。
美術家のAKI INOMATAさんは、ヤドカリなどの生き物を使った現代アート作品や自身の展覧会などについて解説した。
各車両にアーティストが制作した現代アート作品を展示する「現美新幹線」の取り組みを例に挙げ、「一人でやろうと思っても絶対できない体験だった。移動しながら(芸術作品を)見る体験を提供する中で、新たな問いが生まれるなど新鮮だった」と話した。
現代アート作家の支援に取り組む「E&K Associates」代表の長谷川一英さんは、アーティストを企業に派遣する活動を進めており、アーティストとの交流、異分野の人と触れあう機会がイノベーションの源泉になると強調した。
アーティストとの協業を求める企業は増えつつあるが、つながりをどう作れば良いかわからないという声も多い。青柳氏は「欧米、特にヨーロッパでは自国の若手作家を政府が強力に応援しているが、そのあたりのサポートは文化庁はやや弱い面がある。異分野間の接触を後押しすべきだ」と呼びかけた。
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