2026.3.20

雪国の人々は厳しい寒さの中で暮らしながら、時代を超えて様々な文化や技術を育み、後世に継承してきた。秋田県大仙市の真冬の風物詩「刈和野の大綱引き」は大勢の人たちの熱気に包まれる。岐阜県飛騨地方の「飛騨染」は冬の寒さにさらして独特の色を発し、青森県津軽地方の「こぎん刺し」は屋内で行う手仕事として進化した。新潟県上越市の「
雁木 」は雪から歩行者を守る生活の知恵だ。雪が降り積もる各地を取材した。
底冷えの寒さがしんしんと身にしみる夜の9時。行事を取り仕切る「建元」の代表が「大綱」の結び目の上から飛び降りたのを合図に、凍結した雪道の上で、巨大な綱の引き合いが始まった。
室町時代から続くとされる秋田県大仙市刈和野地区の伝統行事「刈和野の大綱引き」は、重要無形民俗文化財に指定されている。今年は約7000人が集まった。
「旧暦1月15日夜、市場の開催権をかけた祭事として、ときの領主が上町と下町の両者に綱引きをさせたのが始まりとされます。上町が勝てば米価が上がり、下町が勝てば豊作と、その年を占う『お告げ』として語られています」と、市の担当者は説明した。1998年以降、開催日は2月10日に固定されている。

国内最大級とされる大綱は毎年新調する。上町は「雄綱」(長さ約64メートル)、下町は「雌綱」(同約50メートル)を作る。綱の太い部分はともに直径約80センチ、2本を結んだ長さは、結び目ができるため約100メートルに、重さは計約20トンにもなる。大綱作りは開催日の1か月前から始まり、完成すると、両町の境界線近くにとぐろ巻きにして安置される。

ただ、大綱作りの熟練した技術者が高齢となり、後継者の育成が課題となっている。地区外の未経験者の受け入れや、地元小・中学校、高校で大綱引きの講演会を開催して将来の担い手確保につなげようという取り組みも進める。
大綱の材料の稲わらの確保も難しくなっている。稲刈りの機械化が進み、稲わらが細かく刻まれることが多くなったからだ。伝統的な刈り取りを行う農家などに事前に依頼し、確保しているという。
大綱引き当日は、引き合いに先立ち、“陣取り”で両町の若者が体をぶつけ合う「押し合い」と、雄綱と雌綱を結ぶ「綱合わせ」が行われる。
引き合い開始の合図で静寂と緊張がほどけ、地響きのようなときの声があがった。大綱の上でちょうちんが大きく振られ、「ジョウヤサノー」のかけ声が響く。引き合いに加わった住民や観光客らは、大綱に結びつけられた細い綱をつかんで力いっぱい引く。勝負は1回。今年は18分で決着したが、30分を超える年もあるという。

刈和野大綱引保存会の今野幸宏会長(71)は「地元住民はもちろん、この日に合わせて故郷に戻る人、大勢の観光客で、刈和野地区は一年で最も活気づく。500年の間、雪が育んできた地域の誇りである伝統行事です」と話していた。(平山徹)
(2026年3月1日付 読売新聞朝刊より)
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