
歴史的文書の保存などを目的とする国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」の国内候補に、「観世宗家伝来 世阿弥能楽論『風姿花伝』」が決まった。文部科学省が発表した。能を大成した世阿弥(1363~1443年頃)の代表的な能楽論で、候補となった3冊には、世阿弥直筆の伝書も含まれる。2027年の登録を目指すという。
「初心忘るべからず」「秘すれば花」で知られる「風姿花伝」は、世阿弥が、芸の核心を花にたとえ、稽古や演技、作品、観客などを多面的に論じたもの。
候補になったのは、観世宗家に伝わる「風姿花伝」五巻本の最古の写本(室町時代後期)と、いずれも世阿弥直筆の「花伝第六花修」「花伝第七別紙口伝」の計3冊。
「能の本を書く事、この道の命なり」から始まる「花伝第六花修」は、世阿弥の署名と花押が入っている唯一の伝書という。世阿弥が子孫のために書いたもので、朱墨で句読点が打ってある。「花伝第七別紙口伝」には、16世紀に観世屋敷を襲った火災で焼け焦げた跡が残る。

申請した一般財団法人「観世文庫」の理事長で、二十六世宗家の観世清和さんは「単なる演劇論だけではなく、人としてどう生きていくかという精神的なものでもある」と説明する。
これらの伝書はこれまで、門外不出として観世宗家のみに相伝されてきた。清和さんが初めて伝書を見たのは31歳の頃。父である二十五世観世左近元正が急逝した後、保管されている蔵に入ると、父から聞いていた通り、風呂敷に包まれ、
「先祖が苦労して守り伝えてきたものを世に問うことはできないか」と考えてきたという。「世界の記憶」は、多くの人がアクセスできるようにすることを目的としており、登録後は広く公開する方法を検討している。
(2025年12月7日付 読売新聞朝刊より)
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