幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎作者・河竹
1873(明治6)年、五代目尾上菊五郎によって初演された。明治という時代の空気を反映して、五代目は、
父・七代目の薫陶を受けた八代目は、今月〔2025年7月〕、大阪松竹座で開幕した襲名披露にこの演目を選んだ。父と息子、2人の菊五郎が同時代に並び立つことは、歌舞伎の長い歴史でも極めて珍しい。八代目は襲名に際して「菊五郎という大きな器にふさわしい役者」を目標に掲げ、黙阿弥作品に代表される「世話物」の継承を誓った。
「父の世話物には江戸の風が吹いている」と八代目はいう。中でも新三は憧れ続けてきた役で今回が3度目の挑戦。善良な奉公人・忠七をそそのかし、その恋人・お熊を誘拐する悪役だが、スカッと粋に演じなくてはならない。七五調の名調子が聞かせどころだ。
一方、親子で同時襲名した長男の六代目菊之助は長唄舞踊「羽根の
菊之助は11歳。「襲名は高校生ぐらいになってからと思っていた」と戸惑いながらも決意を固めたという。一つ一つの振りを丁寧に踊り、大人顔負けの堂々たる舞台姿を披露した。
菊之助の母方の祖父は、2021年に惜しまれつつ亡くなった名優・中村吉右衛門。「音羽屋」「播磨屋」両方の芸を象徴する大器としてすくすくと育ってほしい。
(編集委員 坂成美保)
◇八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露 七月大歌舞伎 24日まで、大阪松竹座。昼の部は中村鴈治郎、
壱太郎 らによる「野崎村」と「羽根の禿」「うかれ坊主」「髪結新三」。夜の部は片岡仁左衛門、中村錦之助の役替わりによる「熊谷陣屋」と「口上」「土蜘 」。10、17日は休演日。(電)0570・000・489。
(2025年7月9日付 読売新聞夕刊より)
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