地域で保護される文化財の中には、美術的、歴史的価値の高いものが少なくない。地域住民が守り継いできた観音像が数多く点在する滋賀県長浜市高月町は「観音の里」として、全国から注目されている。ただ、こうした地域にも人口減少、高齢化の波が押し寄せており、将来、住民の努力だけでは文化財の維持継承が困難になるとの指摘がある。
長浜市高月町西野地区の西野薬師堂は、重要文化財の伝薬師如来立像（像高約159センチ、平安時代中期）と、同じく十一面観音立像（同約167センチ、平安時代前期）を安置する。ともに戦国時代の度重なる戦乱でお堂が焼失する中、村人が運び出して難を免れた。薬師如来はケヤキ、十一面観音はヒノキの一木造り。1926年に国の指定を受けた。
薬師堂は西野地区の充満寺の飛び地境内に立つ小さな建物。同地区の約80世帯から選ばれた12人の世話方が運営にあたっている。高月町が「観音の里」として知られるようになり、現在では全国から老若男女の参拝者がこの薬師堂を訪れる。
今年度の世話方の一人、野洲富男さん（78）は「仏像の専門的なことは学芸員にお任せしたい。私たち世話方は、参拝者がどんな思いを持って薬師堂を訪ねたのかなど、皆さんと対話をしたい。『また訪れたい』と思ってもらえたら本当にうれしい」と語る。１２月から３月までは冬季の休みだが、４月からは多くの参拝者を迎えたいと思っている。
（2025年3月2日 読売新聞朝刊より）
0%
