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2025.1.22

【工芸の郷から】山中塗 — 木目、肌合い 「木の顔」生かす(石川県加賀市)

かんなとろくろを使い、木地を削る川北さん

「塗りの輪島」「蒔絵まきえの金沢」「木地の山中」。石川県内の漆器の三大産地は、それぞれ得意とする工程を冠して呼び分けられる。「木地の山中」とは、加賀市の山中温泉地区で生産される山中塗のことだ。

山中には日本で唯一、木地をろくろで回転させながら刃物をあてて成形する技法を学ぶ「石川県挽物轆轤ひきものろくろ技術研修所」があり、木工芸の人間国宝、川北良造さん(90)が所長を務める。

川北良造さん
川北さんの作品

卒寿を迎えてなお、日々制作に励む。「節目の感慨はありません。一職人として代々の仕事を受け継いでるだけ」と、淡々。一方、遺跡から出土した太古の木工について熱く語り、「歴史の深さに感動する」と目をらんらんと輝かせる。

400年以上の歴史を持つ山中塗。その特徴は、「木の顔を生かす」こと。色の付いた漆を塗り重ねるのではなく、木目や木の肌合いを生かす。彩色がシンプルな分、材料の表面にかんなを当てて細かい模様を付ける「加飾挽かしょくびき」に、高い技術を注ぎ込む。模様に合わせて使い分けるかんなも手作りで、数十種類に及ぶという。

木の特性により用途を使い分けるのはもちろん、同じ種類の木でも質の違いを見極める。「斜面に生える木は、その場にとどまろうとして強くなる。原木を見れば、どこにあった木なのか想像がつく」。自然の生命力に何度も感嘆した。

川の流れが響く工房では、息子の浩彦さん(62)、孫の浩嗣さん(33)も作業をしていた。「幸せ者だ」。頼もしい後継者に、川北さんは目を細めていた。

近代漆器の「COLESSAE」

こだわりの職人がいる一方、山中では戦後に開発された手頃な価格の樹脂製の近代漆器も盛んに生産されている。山中漆器連合協同組合では、樹脂製でウレタン塗装のカラフルなシリーズを「COLESSAE(コレサエ)」と名付け、木製の「もののぐ」と両輪でブランド化している。竹中俊介理事長(66)は、「生活シーンに応じて使い分けてほしい」と語る。

バラエティーに富む山中漆器を一覧できる展示が昨年〔2024年〕12月、北陸新幹線の延伸によって新しくなった加賀温泉駅にできた。1000以上のわんが並んで壮観だ。

(清川仁)

(2025年1月22日付 読売新聞朝刊より)

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