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2024.10.9

【第18回「読売あをによし賞」】〈継承・発展〉「輪島塗」人間国宝に学ぶ ― 石川県立輪島漆芸技術研修所(石川県輪島市)

授業再開に向けて準備作業が進む教室で指導内容について語る小森邦博所長(9月、石川県輪島市で)

文化遺産を守り伝える活動に取り組む個人や団体を顕彰する「第18回読売あをによし賞」の受賞者が決まった。「保存・修復」部門には、伝統的な組みひもの調査や復元を担う多田牧子さん(77)(京都市)、「継承・発展」部門には、漆芸しつげいの技術を次世代に継承する石川県立輪島漆芸技術研修所(小森邦博所長、石川県輪島市)が選ばれた。表彰式は〔2024年〕10月27日に大阪市内で開催する。

【 継承・発展 】

漆芸の技術を次世代に継承
石川県立輪島漆芸技術研修所
(小森邦博所長、石川県輪島市) 

漆芸の技術を継承する拠点として半世紀以上、国の重要無形文化財「輪島塗」などの担い手を育ててきた。1月の能登半島地震による被害を乗り越え、今月授業を再開する。髹漆きゅうしつ(塗り)の人間国宝でもある小森邦博所長(79)は「地震から立ち上がろうとしていることも評価された受賞なのだろう。今後も日本の漆のために頑張っていく」と前を向く。

1967年に設置され、人間国宝(蒔絵まきえ)の松田権六らが開設当初の講師を務めた。現在は8人の人間国宝を含む講師陣が、木地の加工や塗り、装飾技法を教えている。「芸は人なり」という理念のもと、人間形成にも力を注ぐ。

研修生は全国から幅広い年齢層が集まり、現在は10~60歳代の19人がいる。未経験者は2年間「専修科」で基礎を学び、基礎技術の習得者は「蒔絵科」「沈金ちんきん科」など四つの分野に分かれて3年間、伝統の技を磨く。

蒔絵科の制作の様子=石川県立輪島漆芸技術研修所提供

これまで延べ934人が卒業した。輪島塗の作家や職人になる人もいる。第2回卒業生でもある小森所長は「先生方と出会って漆の奥深さを知った。卒業生たちは輪島塗の制作を支える中核になっている。研修所がなかったら今の輪島塗はない」と断言する。

地震の被害で、研修所では制作に欠かせない水が半年以上使えなかった。研修生らの住居の確保が課題となり、近くにトレーラーハウスを整備した。今月1日の授業再開は先月の豪雨の影響で7日に延期されたが、12月には8か月遅れで新入生を受け入れる予定だ。

輪島塗の職人は高齢化が進み、廃業や離職が広がることが懸念される。小森所長は「将来の輪島塗を考えた時、1年でも研修所にブランクがあってはいけない。災害にめげずに指導していく」と話している。

■ 選考委員講評

池坊専好・華道家元池坊次期家元 「細部に技術と美を込めた組みひもに、日本文化ならではの繊細な感性が感じられた」
園田直子・国立民族学博物館名誉教授 「受賞者や候補の活動は多様で幅広く、それによって日本の文化が支えられているのだと感じた」
中西進・国際日本文化研究センター名誉教授 「組みひもの実物を見て、非常に華麗な印象を受けた。文化や芸術の持つ力を感じた」
三輪嘉六・NPO法人文化財保存支援機構理事長 「小さい組みひもの復元と輪島塗の復興はいずれも重要で、大きな期待を込めた授賞だ」
室瀬和美・重要無形文化財(蒔絵)保持者 「輪島塗は日本の漆芸文化の代表的な存在で、研修所は後継者を育てる大事な場所。受賞を発信し、支えていきたい」
湯山賢一・東大寺ミュージアム館長 「初めて地方公共団体が顕彰された。地方で果たすべき役割は大きく、文化財の継承発展にとって望ましい」
平尾武史・読売新聞大阪本社取締役編集局長 「素晴らしい技術が全国にあると感じた。地道に継承に取り組む人たちがいることを賞を通じて広く伝えたい」

主催】読売新聞社
【特別協力】文化財保存修復学会
【後援】文化庁、大阪府教育委員会、国立文化財機構、文化財保護・芸術研究助成財団、読売テレビ

(2024年10月6日付 読売新聞朝刊より)

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