文化遺産を守り伝える活動に取り組む個人や団体を顕彰する「第18回読売あをによし賞」の受賞者が決まった。「保存・修復」部門には、伝統的な組みひもの調査や復元を担う多田牧子さん(77)(京都市)、「継承・発展」部門には、
漆芸 の技術を次世代に継承する石川県立輪島漆芸技術研修所(小森邦博所長、石川県輪島市)が選ばれた。表彰式は〔2024年〕10月27日に大阪市内で開催する。
統的な組みひもの調査や復元
多田牧子さん 77(京都市)
聖徳太子が首にかけたと伝わるお守りのひもや、国宝「鳥獣戯画」の巻物に巻き付けるひもなど、貴重な文化財にかかわる数多くの品を復元・監修してきた。念入りな観察や調査を踏まえ、色鮮やかな複数の絹糸を繊細な技法で1本のひもに組み上げる。
この世界に入って60年余りがたった。「組みひもは宝物の付属品のような存在で、あまりスポットライトが当たらない。これまでの仕事が認められ、うれしい」と顔をほころばせる。
福岡県柳川市の出身で、編み物学校を経営していた母の影響を受け、「編む」「組む」「織る」技術を一通り習得した。大学卒業後、コピーライターを経て「やはり好きだから」と、この道へ。組みひもの分野で唯一の人間国宝だった深見重助氏の弟子・木下和子氏に師事した。
組みひもの歴史は古く、縄文土器に押しつけた跡や断片が残る。飛鳥・奈良時代以降は仏具や経典、巻物などの文物や、刀や
復元は、劣化した文化財や古品を調査して「糸の道筋」を解明するところから始まる。図や見本を作り、組みひも研究家の木下雅子氏が古書を読んで解明した「クテ
伝承が途絶えていた鎌倉時代の技法にも挑戦した。かつて4人がかりで組んだとされる謎の工程を、多田さんは1人で絹糸を手繰って再現。「どれだけ頑張っても1日に8センチしか組めませんでした」と振り返る。
研究対象は南米アンデス地方に広がり、学会を通して「KUMIHIMO」を世界に発信してきた。組みひもを使ったアクセサリーを創作するなど新たな可能性を追求している。
■ 選考委員講評
池坊専好・華道家元池坊次期家元 「細部に技術と美を込めた組みひもに、日本文化ならではの繊細な感性が感じられた」
園田直子・国立民族学博物館名誉教授 「受賞者や候補の活動は多様で幅広く、それによって日本の文化が支えられているのだと感じた」
中西進・国際日本文化研究センター名誉教授 「組みひもの実物を見て、非常に華麗な印象を受けた。文化や芸術の持つ力を感じた」
三輪嘉六・NPO法人文化財保存支援機構理事長 「小さい組みひもの復元と輪島塗の復興はいずれも重要で、大きな期待を込めた授賞だ」
室瀬和美・重要無形文化財(蒔絵)保持者 「輪島塗は日本の漆芸文化の代表的な存在で、研修所は後継者を育てる大事な場所。受賞を発信し、支えていきたい」
湯山賢一・東大寺ミュージアム館長 「初めて地方公共団体が顕彰された。地方で果たすべき役割は大きく、文化財の継承発展にとって望ましい」
平尾武史・読売新聞大阪本社取締役編集局長 「素晴らしい技術が全国にあると感じた。地道に継承に取り組む人たちがいることを賞を通じて広く伝えたい」
【主催】読売新聞社
【特別協力】文化財保存修復学会
【後援】文化庁、大阪府教育委員会、国立文化財機構、文化財保護・芸術研究助成財団、読売テレビ
(2024年10月6日付 読売新聞朝刊より)
0%