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2019.11.13

日本の美と技を味わい尽くす Kōgei Dining開催

人間国宝の手による器で、ミシュランの料理人が作る料理をいただけたら――そう夢見たことがある人も多いのではないだろうか。そんな夢を現実にした催し「Kōgei Dining 」が、11月6日、東京・明治神宮「桃林荘とうりんそう」で開かれた。

日本が誇る「技」の共演。左から漆芸家の室瀬和美さん、 「日本料理 龍吟」の山本征治さん、放送作家の小山薫堂さん

2020年の東京五輪・パラリンピックに合わせ、日本の美を広く発信しようと政府が日本各地で展開する「日本博」の一環で、放送作家の小山薫堂さんがコーディネートした。「伝統的な技の継承とともに、革新的な創作につなげること、また、多くの人に工芸作品と触れあう機会を提供して、使い手と作家の豊かな出会いが紡がれていくことを願っています」とねらいを語る。

この日のために器を用意したのは、漆芸家の室瀬和美さん。2008年、重要無形文化財「蒔絵まきえ」保持者(人間国宝)に認定された。今回は、登山家の三浦雄一郎さんがエベレスト登頂の際に持参した「漆わん ちょもらんま」を選んだ。シンプルな大小二つのお椀だ。

料理は「日本料理 龍吟」の山本征治さんが担当した。2012年から9年連続で「ミシュランガイド東京」で三つ星を獲得している、まさに日本を代表する料理人。ちょもらんま椀を使うのは今回が初めてといい、一目見たときの感想は「料理を盛ってほしそうにしている器」だったという。

建物に伝統芸能まで 日本文化の粋が結集

会場となった桃林荘は、明治天皇第二皇子建宮敬仁たけのみやゆきひと親王の御殿で、昭憲皇太后の生家である一條家に下賜された建物。東京都選定歴史的建造物に選定されており、静謐せいひつな明治神宮の一角にあって、温かみも感じる雰囲気だ。

料理の提供に先立ち、国立能楽堂プロデュースによる能楽囃子ばやしも披露され、いよいよ日本文化の粋を集めたひとときの始まり。

食事に先立ち、能の素囃子が特別に組曲形式で演奏された=稲垣政則撮影

昆布やかつお節、干しシイタケ、干し貝柱、干しエビの「五つの乾貨」をうま味出汁のベースに、ニシンやフカヒレを炊きあげた一皿目から、毛ガニ、スッポン、サンマ、アワビ……贅沢な料理が次々と供される。日本の食材の豊かさ、ひいては自然の豊かさを表現したいという思いが込められていた。

そしてついに「メインディッシュ」のちょもらんま椀。白いご飯と、牛肉とマツタケの炊き合わせが盛られていた。室瀬さんは「漆椀に白いご飯を少しよそう。こうしてほしいなという、そのままの形でうれしくなりました。陰影の美しさがある」と笑顔で感想を述べた。

「ちょもらんま椀」でご飯が供された= 稲垣政則撮影

「漆器は取り扱いが大変なのでは、と敬遠されがちですが、後片付けも簡単です。ご飯粒が付いていたら水を張ってしばらく置いておく。ほかの食器を食洗機に入れるなどしていれば、椀に付いたご飯粒が柔らかくなります。洗剤を付けたスポンジで洗って、水切りかごに置いて自然乾燥で構いません。きれいなものは弱いと思うでしょう? 漆は美しくて強い器なんです」(室瀬さん)

「漆椀 ちょもらんま」を手に話す室瀬さん =稲垣政則撮影

山本さんは「本物に触れる」「本物を使う」ことの大切さを語った。使うことがなければ、技は継承されない。その意味では、使い手、食べ手も文化の担い手と言えるのかもしれない。

当日の献立
「五味調和」 濃青小鉢(中島宏)、魚文箸置き(金城次郎)
「滋味涵養」 古染付芙蓉手輪花皿(1600年代半ば、中国・景徳鎮)
「月とすっぽん」 輪島塗風神雷神図富士形椀(蒔絵・北濱幸作)
「海渡る…」 彩釉鉢(三代 徳田八十吉)
「秋味一皿」 備前焼線文丸皿(藤原雄)
「さざれ石」 釉裏金彩鉢(吉田美統)
「ちょもらんま」 漆椀ちょもらんま(室瀬和美)、手吹ヴェニス小皿(藤田喬平)
「~甘い記憶~」 色絵薄墨草華文紅茶碗(十三代 今泉今右衛門)
お茶 曜々盞(九代 長江惣吉)=敬称略。いずれも米田育広撮影
京都でも開催
前田昭博さんによる「 白瓷捻面取盃 」(日本博事務局提供)

Kōgei Diningは11月21日(木)、京都・下鴨神社「供御所」でも開かれた。陶芸家で重要無形文化財「白磁」保持者の前田昭博さんが「白瓷捻面取盃」を用意し、「板前割烹 浜作」3代目主人で「現代の名工」に認定された森川裕之さん、京都・岡崎の「cenci」オーナーシェフ、坂本健さんによる料理をいただく。また、京舞井上流五世家元で、重要無形文化財「京舞」保持者の井上八千代さんによる舞が披露された。40人限定。盃は持ち帰ることができ、料金は8万円(消費税別)。申し込みは、高島屋京都店6階美術画廊で。

【主催】文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会
【協賛】ぐるなび
【特別協力】株式会社三越伊勢丹、株式会社髙島屋、公益社団法人日本工芸会、明治神宮記念館、下鴨神社、龍吟、浜作、cenci、下鴨茶寮

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