着物を着てみたいけれど、どのように選べばいいのでしょう。和装文化研究所の所長で経済産業省の和装振興協議会の座長も務める文化学園大の近藤尚子教授に、着物の始め方を教えてもらいました。
着物を始めるなら、小紋か紬から試してみてはいかがでしょう。普段着から、ちょっとしたお出かけや女子会にもぴったりです。紬は生地が硬めなので着崩れしにくいのもうれしいところ。
着物は、10月から5月までは裏地のついた「袷」、6月と9月は裏地のない「単衣」、盛夏は絽や麻といった薄物や浴衣と、季節ごとに着る種類がだいたい決まっていますが、ファッションとして着るなら、体調や気候に合わせてある程度自由に着てもいいと思います。
色は自分の好きな色で構いません。普段グレーや黒の洋服を着ることが多い方は、思い切ってパステルカラーを選ぶなど冒険をしてみても。柄は幾何学模様など、季節を問わないもの、何度も着られる飽きがこないものから始めるのがいいかもしれません。
帯は、名古屋帯が結びやすいでしょうか。色味は、伝統的には着物と反対色で合わせるのですが、洋服感覚で同系色にしてもきれい。小紋や浴衣の場合は、着物の中に入っている色で帯を選ぶと合いますよ。「着物1枚に帯3本」と言われるように、同じ着物でも帯のバリエーションを変えると雰囲気を変えて楽しむことができます。
慣れてくると、着物や帯に季節の花を取り入れる、観劇に行くから歌舞伎の模様、秋だから正倉院文様など、模様で遊べるのも着物の面白みです。私は12月はクリスマスツリーの柄の帯をします。着物の特徴の一つが絵画的な模様なので、洋服とは違う楽しみ方ができます。
着物というとルールが難しそうと思われがちですが、まずは、襟のあわせを「右前」にすることを忘れなければいい。右前は、右側の身ごろを先に体に合わせ、手前側に持ってくる着方で、奈良時代に出た命令が始まりと言われています。日本は死を逆さごとにして日常から切り離すので、死者の着物は左前。着物の構成上も、右前にあわせて良い柄が前に来るようになっています。
実は、今世間で言われているようなルールの多くは、戦後に作られたもの。より美しく着物を着ようとして作られたんですね。戦前の写真などを見ていると緩く着ている人も多い。最近、街で長襦袢の代わりにシャツを着たり、足元にパンプスやブーツを合わせたりする着物姿の若者を見かけますが、すてきですね。小物も、帯留めをブローチにしたり、革のバッグやストールを合わせたり、おしゃれに、自由に楽しんでほしい。
着物をどこで手に入れるか。私は学生に、まず「着物を着たい」と宣言することをすすめています。宣言すると、親戚や知人から着なくなった着物をもらえることが多いんです。それから、着物のリサイクルショップもいいかもしれません。
もらうにせよ、買うにせよ、サイズは重要。ポイントは、▽身丈(襟から裾まで)が自分の身長分あるか▽裄丈(背の中心から袖口まで)は自分の体と同じくらいか▽袖丈が短すぎないか(自分の持っている長襦袢と合うか)――の三つ。汚れやすり切れがないかもチェックしてみてください。
成人式や卒業式で晴れ着を着て、ひもで締められて苦しくなった方がおられるかもしれません。フォーマルな装いなので仕方がない面もありますが、おしゃれで着物を着るなら、たとえば帯も下側をきちんと締めれば上は緩くても大丈夫。
そのためにも、着付けの方法を知ることが第一歩。学内でも、一般の方も利用できる無料の着付け教室をやっていますし、インターネットの動画もあるようです。何回も練習をすることが必要ですが、いろいろと試して自分なりの楽な着方を見つけてみてください。
着物は、1本の反物を八つに切って縫い合わせた布を体に巻き付け、腰ひもで締めて着る服です。平面のものなので、立体的な体に着せるにはコツがいる。そのコツさえつかめれば、こんなに楽な服はないと思っていて、私は着物で運動もするし、歯医者にも行く。腰ひもの強さや着丈など、体形に合わせて自分でカスタマイズできるのも、洋服にない魅力です。
着物を格好良く着こなそうと思うと、所作にも気を使い、きれいになる。コーディネートを考え出すと、季節や花鳥風月にも興味を持ち、教養も深まります。着物は体にいいんです。ぜひ、着物生活を始めてみてください。
0%