25日まで開催されている歌舞伎座の「二月大歌舞伎」第一部『
――2月の歌舞伎座第一部、七之助さんはお嬢吉三での出演ですね。河竹黙阿弥の世話物として、あまりにも有名な作品。女装の盗賊、という役柄は七之助さんにはぴったりだと思いますが、いかがでしょうか。
七之助 1月の歌舞伎座で出演した『
『弁天小僧』の「知らざぁ言って聞かせやしょう」もそうですが、憧れの役をやらせてもらえるとなった時は、嬉しかったですね。(2004年1月の)「新春浅草歌舞伎」で、初役で勤めた際に、(尾上)菊五郎のおじさまがわざわざ浅草までお越しくださって教えていただきました。とても有り難かったです。楽(千穐楽)の日、ご挨拶にいったら、おばさま(菊五郎の妻、富司純子)に「よかったわよ」と言っていただいて。それがとても記憶に残っています。
春の夜、隅田川の畔、大川端で出会った「吉三」という名前の3人の盗賊。その3人にまつわる複雑な人間関係と因果応報を描くのが、『三人吉三』の物語だ。河竹黙阿弥の代表作のひとつで、安政七年(1860年)に『三人吉三廓初買』の外題で初演され、現在では『三人吉三巴白浪』として上演されている。「大川端庚申塚の場」での「月もおぼろに白魚の…」で始まり、「こいつぁ春から縁起がいいわぇ」で終わるお嬢吉三の名台詞は、あまりにも有名。
――このお芝居、このお役で、特に印象深いところはありますか。
七之助 大川端の場面、(侍崩れの盗賊の)お坊吉三と百両を巡って争いになり、通りがかった和尚吉三が仲裁に入る、というところがあるのですが、3人で形を決める時に「(お嬢吉三が持っている)刀の柄は上げちゃダメだよ」と菊五郎のおじさまが一言おっしゃったんです。まだ私も若かったので、「どうしてですか」とも聞けず、その時は「そういうものか」と思っただけだったんです。
――そんなことがあったんですか。
七之助 父(十八世中村勘三郎)が亡くなった後、初めての「コクーン歌舞伎」で『三人吉三』を上演したんですよ。演出の串田和美さんから、この場面を「型も下座音楽もやめて、自由にやってみよう」という提案がありました。
……歌舞伎役者にとって
お坊吉三は(尾上)松也くんだったのですが、ある種リアルに、アウトローみたいな感じで争っていたら、そこに和尚吉三役の兄(中村勘九郎)が
――菊五郎さんの教えの意味が、改めて実感できたわけですね。
七之助 歌舞伎の演技には「型」がつきものですが、その背景には「リアル」がある。それが改めて実感できましたね。綺麗に絵面を作っているだけではない。歌舞伎の深さ、凄さも改めて感じさせてくれました。
「コクーン歌舞伎」は東京・渋谷の劇場、シアターコクーンで行われる歌舞伎公演。1994年、五代目中村勘九郎さん(当時、後に十八世勘三郎)らが『東海道四谷怪談』を上演したのが最初で、2022年2月の『天日坊』まで18回の公演が行われている。多くの作品で串田和美が演出を担当、『三人吉三』などの古典演目のリニューアルなど、実験的・先鋭的な試みが目立っている。
――お嬢吉三という役については、どんなことを思っていますか。お坊吉三との関係も微妙なところがありますが。
七之助 いろいろなやり方がありますが、お嬢は五つの時に
――今回は、和尚吉三が尾上松緑さん、お坊吉三が片岡愛之助さん。先輩方との共演ですが。
七之助 先輩方に胸を借りる気分ですね。2人が引っ張ってくださるので、私は付いていけばいい。『三人吉三』は黙阿弥作品の中でも、かなりリアルで、とてもしっかりした筋の作品。それぞれの事情で友情を「探していた」3人の盗賊の物語を、お客様も楽しんでいただきたいです。
――今年の目標、心構えをお聞かせ下さい。
七之助 今年は楽しみな興行が多く、まずは4月の御園座です。新しくなってから初めて伺うので、どのような感じになっているのか。名古屋は中村屋ゆかりの地なので、心待ちにしています。
5月は姫路城の三の丸広場に平成中村座を建てての公演。第二部で『天守物語』の富姫を演じさせていただきます。私にとっては、ワクワクする挑戦です。「前半戦」はこんな感じでしょうか。しっかり体調管理をしながら、舞台に臨みたいですね。
歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎の公式サイトはこちら https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/808
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