読売新聞社は、日本が誇る伝統文化を次世代に継承していく取り組みを広げていきます。対談企画として、日本の文化の源流が息づく京都で、江戸時代から続く染織の老舗「染司よしおか」の6代目当主・吉岡更紗さんの工房を、工芸にも造詣の深い美術ライターの橋本麻里さんが訪問。作る側と求める側の思いを和やかに語り合ってもらいました。後半は、今日のライフスタイルの中で、伝統文化の担い手が向き合う課題などについて話します。
橋本 では、伝統文化と切り離された現代の暮らしの中で、伝統文化の担い手が向き合うべき課題とは何でしょう。
吉岡 うちは長く三つの社寺の仕事を続けています。伝統的な行事に関わる仕事は絶対にやめるわけにいきません。一方で最近はマンションなど建築関係の仕事も増えています。大空間の演出のような経験は大変ではありますが、染織という仕事は様々な可能性があると気付かされます。
橋本 他方、発注側にも知識があれば、作り手が想像しなかったような新しい工芸の使い
吉岡 染織業は分業制でかなり細分化されています。職人とお客様が直接話すことはなく、間に問屋や呉服屋が入り、取引されていましたが、そういった構造が変わっていくことも大事なポイントだと思います。
橋本 伝統的な産業構造を、どうやって現代的なスタイルにしていくかも、大きな課題だと。
吉岡 伝統文化を担う私たちにとって、作品をお買い求めいただけるということが最も率直な評価を感じられること。また、そのやり取りの中で、お客様が何を望んでいるかを知り、その後の製作に生かしていくことも大事です。
橋本 はい。そして自分の
吉岡更紗(よしおか・さらさ) 1977年生まれ。江戸時代に京都で創業した染屋「染司よしおか」の6代目当主。父は染織史研究家で5代目当主の吉岡幸雄(1946~2019年)。「染司よしおか」の詳細はホームページ( https://www.sachio-yoshioka.com/ )で。
橋本麻里(はしもと・まり) 美術ライター・永青文庫副館長。1972年生まれ。国際基督教大卒。日本の古美術から現代アートまで、豊富な知識で評論・解説する。ウェブの生配信番組「ニコニコ美術館」の進行役でも活躍中。著書に「かざる日本」「京都で日本美術をみる」など。
(2022年10月1日付 読売新聞朝刊より)
0%