鹿島神宮(茨城県)の国宝「直刀 黒漆平文大刀拵 」のうち拵の修理が、奈良国立博物館文化財保存修理所(奈良市)で進んでいる。
武神である鹿島の神の宝刀を収める拵(外装)は、黒々とした威容を作業台に横たえていた。
拵は鞘や柄などの総称。黒漆塗り、総長2・7メートルで、遅くとも平安時代には作られたとされる。刀身は直刀で、刃の長さは2メートル超。鞘や柄にみられる文様の痕跡は、漆を塗り重ねて研ぎ出す「平文」の技法で獅子や瑞雲を華麗に描き出したものと考えられている。金具は唐草文様を透かし彫りした金銅板を巻き、随所に立体的な花飾りを取り付ける。
漆の表面には細かい亀裂が入り、塗膜がはがれ落ちる危険性があった。漆工芸家で修理技術者の北村繁さん(49)(奈良市)が2019年6月から2年の予定で、表面のクリーニング、剥落止めなどにあたっている。
北村さんは「漆という素材は堅牢で、基本的に割れたところからしか処置できない」と修理の難しさを語る。亀裂の深さや状態によって手順や回数を変えながら、割れ目に膠の水溶液をしみ込ませ落ち着かせた後、筆や綿棒を使ってほこりや汚れを除去する。その後、漆をしみ込ませ本体と固着させていく。
表面に残る文様…技法はナゾ
拵には謎も残る。黒漆表面にうっすら浮かぶ線状の凹みから文様は見て取れるが、平文の金属片の痕跡がないためで、技法については研究者も首をひねる。修理に伴い、北村さんが凹みの形状や文様を描き起こす試みもなされた。
修理の進捗確認と協議に立ち会った文化庁の伊東哲夫・文化財調査官は「総合的に診断し手当てしていただいた。こうした地道で着実な手当てによって、後世に伝えていける」と語った。