東京国立博物館の法隆寺宝物館は「法隆寺献納宝物」300件余りを収蔵・展示している。
献納宝物は、1878年に法隆寺から皇室へ献納され、戦後になって国に移管された。奈良・正倉院の宝物と双璧をなすコレクションとして高い評価を受けている。「聖徳太子と法隆寺」展にも献納宝物から多くの作品を出品する。
正倉院宝物は8世紀の作品が中心であるのに対し、7世紀までの飛鳥時代のものが多いのが特徴だ。仏教美術の
これだけ多くの宝物が現代まで受け継がれたのは、明治初期の「廃仏毀釈」運動により、全国の寺院で仏像などの散逸や流出が進む中、皇室への献納という形で宝物を守る英断を下した法隆寺の取り組みがあった。
法隆寺は、当時開催された奈良博覧会に出品した作品を中心に献納を決意。多くは船で東京へ運ばれた。献納宝物によって法隆寺の存在がより重要視されるようになり、困窮状態から再生していく出発点にもなったという。
宝物館は、献納宝物をまとめて保存・展示する建物として1964年に開館した。作品の保存上、当初は週1日の公開に限られていたが、99年に開館した新しい宝物館は保存機能を高めて、本館など他の展示館と同じ週6日の公開となった。聖徳太子と法隆寺展の東京開催の際には、合わせて鑑賞できる。 (開館日・開館時間など詳細は東京国立博物館ホームページでご確認ください)
東京国立博物館の三田覚之主任研究員は「法隆寺は聖徳太子のご遺品を守り、未来につなげていこうと、1000年を超えて文化財保護のリレーに努めてきた。明治期の『献納』もその一つだ。その末端として、現代に生きる私たちも、さらに1000年先まで伝えていかなければならない」と話している。
(2021年4月4日読売新聞朝刊より掲載)
橋本麻里(はしもと・まり) 1972年生まれ。国際基督教大卒。日本の古美術から現代アートまで、豊富な知識で評論・解説する。主な著書に「日本の国宝100」など。
奥健夫(おく・たけお) 1964年生まれ。東京大大学院修了。文化庁美術工芸課技官などを経て現職。主な著書に「仏教彫像の制作と受容」。
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