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2020.12.14

【歌舞伎 三人吉三巴白浪】犯罪、禁断の愛…因縁絡む物語を時蔵、芝翫、松緑がドラマチックに

公演を前に、意気込みを語る松緑さん、時蔵さん、芝翫さん(左から)

2020年を締めくくる国立劇場(東京・半蔵門)の12月歌舞伎公演(2020年12月3~26日)は、河竹黙阿弥かわたけもくあみが手がけた世話物の傑作を二部制で上演する。一部は、「三人吉三巴白浪さんにんきちさともえのしらなみ」で、主要な場面を中心に上演する「半通し」。複雑な因縁が絡み合う登場人物の関係が理解しやすくなっている。お嬢吉三を中村時蔵さん、和尚吉三を中村芝翫さん、お坊吉三を尾上松緑さんが演じる。初めての顔あわせとなる舞台に向け、意気込みや見どころを聞いた。

あらすじ

節分の夜、お嬢吉三は隅田川の河畔で夜鷹よたかの女から100両を奪うが、それをお坊吉三が見とがめ、2人は金を巡って争う。通りかかった和尚吉三が争いを仲裁し、互いの正体を明かし合った3人は義兄弟のちぎりを結ぶ(「大川端」)。悪事を重ね、やがて役人から追われるようになった3人は古寺に身を潜める。そこへ、和尚の妹が恋人とともに訪ねて来て、父親が殺されたことを知らせる。この妹こそ、お嬢が金を奪った夜鷹。殺された和尚の父はお坊の敵、そして、その父を敵と知らずにお坊が殺したことなど、3人の思いがけない因縁が判明し……。

女装男子の豹変

振り袖姿の娘に化けている「女装男子」お嬢吉三。武家の生まれのお坊吉三に、元々は僧侶だった和尚吉三という、「吉三」という同じ名前を持った3人の盗賊の物語。終盤では、雪の中での迫力ある立ち回りも楽しめる、歌舞伎の面白みが詰まった舞台だ。

3人の吉三が出会う、序幕 大川端庚申塚の場(国立劇場提供)

冒頭の大川端の場面では、何と言っても、可憐かれんなお嬢様を演じていたお嬢吉三がいきなり男に戻り、本性をあらわしてすごむその豹変ひょうへんぶりが面白い。女形ならではの表現力でお嬢吉三を演じる時蔵さんは「お嬢をやるのは3回目ですが、東京では初めてです。前回は2003年に香川のこんぴら歌舞伎で、十代目三津五郎さん、十二代目團十郎さんと通しでやった懐かしい思い出があります。今回は芝翫さん、松緑さんと、気心の知れている3人で、年末らしい楽しく明るい舞台にしたいです」と話す。

笑いの絶えない会見
頼れる和尚、やんちゃなお坊

和尚吉三は3人の中では頼れる兄貴分であり、妹たちとの悲劇的な別れを描いた「墓地」の場は見せ場の一つだ。芝翫さんは「和尚は26年ぶりです。私の子どものころから、和尚といえば、(松緑さんの祖父の)紀尾井町のおじ様(二代目尾上松緑)と(松緑さんの父の)とおる兄さん(三代目尾上松緑)の印象が強くて、その後を継いでおられる松緑さんの前で演じるのはちょっと嫌だなぁとも思うのですが、こちらも兄貴分として負けないよう、青春の火花を散らしたいですね」と話す。

二幕目第二場 巣鴨在吉祥院裏手墓地の場(国立劇場提供)

一方の松緑さんは、今回、お坊を若々しくやんちゃに演じる。松緑さんは「私は和尚の役が多く、お坊は2度目で通しは初めてです。長年お嬢吉三をされてきた(尾上)菊五郎のお兄さんにも伺いながら勤めたい。お坊は典型的な二枚目で色気が必要なので、研究をしていきたいと思っています」と話す。

心地よい名ゼリフも見どころ

作者の河竹黙阿弥は、幕末から明治にかけていくつもの歌舞伎の名作を手がけ、小気味よい七五調の名ゼリフで知られる。「大川端」では、「月もおぼろに白魚の……こいつは春から、縁起がいいわえ」という有名なセリフをお嬢吉三が流麗に語る。

お嬢吉三が有名なセリフを語る大川端庚申塚の場(国立劇場提供)

時蔵さんは、「好きなセリフですが、皆さんがよくご存じで、目が肥えておられるだけに怖さがありますね。他の先輩たちに負けないように務めたいです」と気を引き締める。芝翫さんも、「黙阿弥のセリフは、お客様だけでなく、やっている役者も心地よくなるのですが、七五調に寄りかかりすぎずに、物語、性根を心に置いて演じたいです」と話す。

親子愛、兄弟愛、同性愛、近親相姦…描かれる様々な「情」
二幕目第一場 巣鴨在吉祥院本堂の場(国立劇場提供)

登場人物を取り巻く親子愛から兄弟愛、同性愛、近親相姦そうかんまで、様々な「情」が色濃く描かれ、物語をよりドラマチックにしている。時蔵さんは、「今の時代では表現しにくくなっている部分、この先やりにくくなっていくのかなと思う部分もありますが、黙阿弥が得意としている因縁、因果が存分に描かれています」と勧める。

松緑さんも「(同じ盗賊の話として知られる)『白浪五人男』と比べると、『三人吉三』はダークな印象がありますが、とても好きです。今の時代では表現が難しい部分もあるでしょうが、題材は非常に練られたもの。ずっと後にもこの作品を残していきたいですし、きっちりとした良いものを12月公演で皆様にお見せしたいと思います」と述べた。

雪の中の立ち回りが美しい、大詰 本郷火の見櫓の場(国立劇場提供)
吉三は渋谷のセンター街にいる?

「三人吉三は、今なら渋谷のセンター街にいる3人じゃないかなと思います」と芝翫さん。「今も都内のどこかにいるんじゃないかと、時代を超えて錯覚できるような生活感や、人間の情が身近に感じられないと、この物語は成立しません。少しでもこの3人の生きざまが、お客様の胸に届くといいなと思います」と話していた。

(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)

開催概要

日程

2020.12.3〜2020.12.26

【第一部】午前11時開演(午後1時20分終演予定)
※15日(火)は休演

会場

東京都千代田区隼町4-1
国立劇場

料金

1等席 7,000円(学生4,900円)
2等席 4,000円(学生2,800円)
3等席 2,000円(学生1,400円)

お問い合わせ

国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
0570-07-9900
03-3230-3000[一部IP電話等]

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