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2026.1.25

【修理助成 全国に広がる 1】重要文化財「不空羂索けんさく観音立像」(福岡・観世音寺蔵)

2026年度「紡ぐプロジェクト」修理助成事業

重要文化財「不空羂索けんさく観音立像」 福岡・観世音寺蔵

2026年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、宮城県から重要文化財「瑞巌ずいがん寺本堂墨絵の間障壁画」(瑞巌寺蔵)、福岡県から同「不空羂索けんさく観音立像」(観世音寺蔵)、高知県から同「大威徳明王だいいとくみょうおう像ほか12件」(竹林寺蔵)が申請された。修理助成対象となった計7件はいずれも劣化が進み、絵画3件は本紙の亀裂やのりの劣化、仏像3件は漆箔しっぱく層の浮き上がりや虫食いなどが見られる。貴重な文化財を後世に伝えるため、素材を調査し、最善の修理方法を検討したうえで、1年~数年の作業に着手する。

高さ517センチ 鎌倉時代の復古像

観世音寺は九州を代表する古刹こさつだ。宝蔵に安置される像高約5メートルの仏像群は、太宰府観光の目玉ともいうべき地域のシンボルとなっている。なかでも517センチの不空羂索観音立像は、最大の像高を誇る。

クス材から彫り出す。1914~15年(大正3~4年)にかけて解体修理が行われた際、像内から墨書銘が発見され、鎌倉時代の貞応元年(1222年)に制作された仏像であることがわかった。制作にあたった仏師の名前も判明した。制作年と作者が明らかな作例として、本像の重要性が再確認された。

また、もともとは天平時代に盛んに造られた塑像の仏像で、承久3年(1221年)に転倒して砕け、翌年に木造で再興されたことも判明した。像内からは塑像の心木と頭部の破片などが発見されており、鎌倉時代の復古像として、文化史上きわめて重要な位置を占めることが明らかになった。

しかしちりや埃が巨像に積もったまま長い年月が経過しているほか、高温多湿に起因するカビや、表面の漆箔層の浮き上がり、くぎかすがいの錆などが多数確認されている。

修理は2年計画で宝蔵内で行う。1年目は周囲に足場を設置して上半身を、2年目は足場を撤去して下半身を修理する。表面層に注意しながら、塵、埃、カビ、錆を除去し、漆箔や彩色の浮き上がりはにかわや樹脂などを用いて剥落止めを進める。

写真=重要文化財「不空羂索けんさく観音立像」 福岡・観世音寺蔵 像高が5メートルを超える巨像。鎌倉時代の復古像として文化史上きわめて重要な位置を占める

重要文化財「不空羂索観音立像」 福岡・観世音寺蔵
像高が5メートルを超える巨像。鎌倉時代の復古像として文化史上きわめて重要な位置を占める

観光振興で修理 活用と保護に光

「紡ぐプロジェクト文化財維持・修理助成事業」選考委員の横内裕人京都府立大教授(日本中世史)の話

「紡ぐプロジェクト」の文化財修理助成は2026年度で8年目に入る。この間、修理を必要としている文化財に助成を継続できたことはたいへん喜ばしい。宮城、福岡、高知と初の申請が相次ぎ、全国的な広がりは今回も続いている。さらに今回は、修理の意味を考えるうえで、とても意義深い申請が二つあった。
一つは福岡・観世音寺の不空羂索観音立像。奈良時代に塑像のお像として造られたが、鎌倉時代に倒れて壊れてしまった。だが、鎌倉時代の人々が造像時の人々の意思を引き継ぎ、元(塑像)の心木を像内に収めつつ木造のお像としてよみがえらせた。この来歴こそ修理の象徴と言える。そして今、お像を未来に伝える修理に「紡ぐプロジェクト」が取りかかることができるのは意義深い。
もう一つは高知・竹林寺の14体の仏像の修理。竹林寺は多くの観光客が訪れる寺院。そこで観光客の受け入れ環境を整備する一環として、美観向上という見地から国に「文化資源活用事業費補助金」の交付を申請する予定だ。この補助金は従来の枠では対応が難しかった取り組みを後押しする制度。今後、この補助金を契機に、文化財の活用を一層進めながら、適切な修理や整備を行う流れが広がっていくのではないか。その先駆けと言ってよい竹林寺の仏像修理に「紡ぐプロジェクト」がかかわり、多くの人に知ってもらうことには大きな意義がある。
「紡ぐプロジェクト」の開始10年という節目も近づいてきている。例えば助成した文化財を集めた展覧会など、記念事業を考え始めてはどうか。

(2026年1月11日付 読売新聞朝刊より)

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