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2023.11.13

【首里城復元 かつての姿へ・5】美術工芸品 修理に知恵絞る

「闘鶏図」は2020年度に欠損箇所を修理した

首里城正殿などには琉球の「手わざ」が至る所に施されていた。外壁、柱は漆塗りの上に金箔きんぱくなどで飾り、屋根の「龍頭棟飾りゅうとうむなかざり」は陶磁、龍柱は石の彫刻、国王の座所は華やかな織物で飾っていた。今回の正殿復元工事は、地元沖縄で継承する伝統技術を生かし、次世代に伝えていく取り組みも合わせて進めている。柱に使う材木を確保するため100年後を見据えた植林活動も始まった。被災した美術工芸品の修理へ人材確保も必要だ。首里城復元は、琉球の美を守り継ぐための「未来への投資」でもある。

 

首里城の火災では、琉球漆器などの美術工芸品も被災した。限られた文化財修理の専門家が長年の経験と知恵を生かして修理していくため、長期的な作業が続いている。

首里城を管理する一般財団法人「沖縄ちゅら島財団」によると、美術工芸品1510点のうち、焼失を免れたのは1119点。火災後の調査で、364点に修理が必要と確認、このうち琉球漆器が281点と大半を占めた。

琉球漆器の修理 完了まで20年

収蔵庫に保管していた漆器は高温と消火活動による高湿度にさらされたため、包装の薄紙が貼り付き、漆器内部から液体が漏れ出ていた。漆の塗膜がはがれたほか、木部の変形もあった。同財団は、1点ずつ被害に応じた方法を模索しながら修理を進めており、これまでに終えたのは12点。すべての完了には早くても20年ほどかかる見通しだ。

陶磁器21点は割れた部分を接着するなどし、今年〔2023年〕度中に作業を終える。染織は、絹繊維が高熱で固まり、変色や退色などの被害が出たため、修理は難しいという。

琉球王国時代の壺屋焼「呉須ごす線彫せんぼり牡丹文ぼたんもん酒注さけつぎ」は折れた注ぎ口を接着した
漆器は亀裂の際に漆を含ませて塗膜を圧着する
漆に木の粉などを混ぜた「刻苧こくそ」で亀裂の際を埋める
染織品は青色が灰色に変色した

修理を担う技術者も不足している。沖縄県立芸術大学では、漆芸を学んだ大学院生に文化財の保存と修理の授業を始めたばかりだ。

同財団琉球文化財研究室の幸喜淳室長(49)は「正殿の工事が完了する2026年が一つの区切りになるが、美術工芸品の修理には長い時間を要する。技術者育成も考えなければならない」と話している。

※写真は沖縄美ら島財団提供

補強、接着 地道で緻密な作業

沖縄在住で漆器の修理をになう技術者・土井菜々子さん(50)は、沖縄美ら島財団の委託を受け、被災した大量の琉球漆器の修理に取り組んでいる。

琉球漆器の修理を進める土井さん(那覇市で)

湿らせた綿布に精製水とエタノールなどの溶剤をつけて拭くクリーニング、漆の塗膜にできた肉眼では見えない微小な亀裂の補強、はがれた螺鈿らでん細工の貝などの接着を行う。漆は固まるまで時間がかかり、はがれた螺鈿細工はニカワ液で接合した後、竹ひごで押さえるなど地道で緻密ちみつな作業を繰り返す。火災時の熱による木部の収縮や今までに見たことのないような被災状態が多いという。

技術者の育成には長い時間

今回の修理は、土井さんの工房と、かつて修業を積んだ東京の工房が主に担当している。土井さんは、沖縄県立芸術大学でも指導しており「火災を機に修理の人材の必要性が注目されているのはチャンスでもある」と力を入れる。ただ、自身が独立までに15年かかったように、修理技術者の育成には長い時間がかかるのが課題だ。

(2023年11月4日付 読売新聞朝刊より)

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