2024.6.4
【修理リポート】重要文化財「聖徳太子勝鬘経講讃図」(三重・西来寺蔵)― 作業前に法要 鑑賞の機会
「紡ぐプロジェクト」修理助成 事業6年目 修理始まる
「紡ぐプロジェクト」の文化財修理助成事業は、今年度〔2024年度〕で6年目を迎えた。新たに助成対象となった国宝「宋版太平御覧」(京都・東福寺蔵)などが所蔵者のもとから修理所に運ばれ、作業がスタートした。
西来寺(津市)所蔵の重要文化財「聖徳太子勝鬘経講讃図」は京都国立博物館に寄託されているが、修理を前にいったん同寺に返却された。〔2024年〕4月6日には法要が行われ、地域の住民らが「地元の宝」を鑑賞した。
本作は、35歳の太子が小野妹子や蘇我馬子ら4人を前に経典を説く場面を描いており、鎌倉時代(13世紀後半)の作とされる。
同館の大原嘉豊研究員によると、勝鬘経講讃図は山背大兄王を加えた5人を前にした構図で描かれた例が多いが、西来寺のものは平安時代の古い形式として現存する唯一の作例とみられる。由来について、「室町時代に古いお寺が寺宝を手放した際などに、交易で栄えた津の街の人たちが大事に守ろうと西来寺に納めたのでは」と言う。
前回修理から100年以上が経過しており、絵が描かれた絹の横折れや欠損が目立ち、表面の彩色が剥落する恐れも高い。修理は同館の文化財保存修理所にある「松鶴堂」(京都市東山区)の工房で行う。
法要には檀家ら約70人が参加。寺井良宣住職(75)は「寺に伝わる貴重な絵を実際に見てもらう機会を設けられた。皆さんの力で修理が行われ、後世に守り伝えていくことができる」と話した。
■ 紡ぐプロジェクトとは
国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。
(2024年6月2日付 読売新聞朝刊より)