文化庁、宮内庁、読売新聞社が推進する「紡ぐプロジェクト」の2020年度の文化財修理助成事業が15日、スタートした。新たに助成対象となった文化財7件のうち、皇室ゆかりの京都・泉涌寺所有の国宝「泉涌寺勧縁疏」が、寄託先の奈良国立博物館(奈良市)から京都市内の修理作業施設に搬送された。
修理助成事業は、企業の協賛金や特別展の収益の一部で進められ、初年度(19年度)は国宝「普賢菩薩像」(東京国立博物館蔵)など8件の修理がスタート。今年度は国宝・重要文化財計7件が選定された。
そのうち、「泉涌寺勧縁疏」は、中国・南宋で学んだ泉涌寺の開山・俊芿が鎌倉時代に、寺院創建の寄付を募る目的で作成した文書。仏教を取り巻く状況などを伝える貴重な資料で、書の技法も高く評価されている。
経年の劣化によって、表面の絵の具や墨が剥げ落ちた箇所や亀裂が見られ、修理では剥落を止め、亀裂を裏側から補う作業を実施。裏打ち紙も交換する。
この日、奈良国立博物館に寺の関係者や修理技術者らが集まり、巻物になった文書を広げて傷み具合などを確認。箱に入れて慎重に運び出し、京都国立博物館(京都市東山区)内の修理作業施設に移した。
泉涌寺の藤田浩哉寺務長は「俊芿の800年御遠忌を6年後に控え、このタイミングでの修理は大変意義がある。美しくよみがえことを願っている」と話した。
(2020年6月16日付読売新聞朝刊より転載)