2019年度から修理が始まった国宝「
経過を報告するシリーズの2回目は、劣化が進んだ作品の修理に欠かせない「肌裏紙」や「補修絹」による手当てを中心に紹介する。
修理には、「補修絹」「肌裏紙」といった材料を準備する必要がある。「絹に描かれた作品は、裏に直接貼る肌裏紙の色が作品の見え方が変わる重要なポイント」と、宇和川史彦技師長。肌裏紙は、岐阜県美濃市などで
薄美濃紙は
補修絹とは、欠損部を補う絹。本紙に使われている絹は、太さや密度にばらつきがあり、場所によっても表情が異なるため、絹目の調査を慎重に行った。ルーペを見ながら、縦糸、横糸の本数を数え、糸の太さや織りが作品に近い補修絹を選び、オリジナルの絹の状態に合わせて絹をたたいて加工した。
準備した新しい絹を古い絹にそのままはめると、絹自体の強度の差によってオリジナルの絹を傷めてしまう恐れがある。そのため、電子線を当てて科学的に絹を劣化させて、古い絹の強度に近づけるように調整する。
この過程で変色することがあるため、この後、天然染料と絵の具で染めて色を調整する。補修絹は複数のサンプルを作って、検討会に諮った。
「平安時代の仏画は、後の鎌倉時代や室町時代と比べても材料の質がよく、技術も洗練されている。文化度が高い時代だったのだろう」と、修理を担う半田九清堂の半田昌規社長は語る。
肌裏紙と補修絹の組み合わせを選ぶ
作業はまだまだ続きます。⑬は絵の表面を保護する「表打ち前養生」です。
(2021年2月7日読売新聞より掲載)
2年にわたる普賢菩薩像の修理の流れをまとめた動画を制作しました。
伝統的な素材を用いた絵画の修理は「80年から100年ごとに行う」必要があり、作品の裏側まで見られる貴重な機会です。
今回は、以前の修理で補われた絹などを可能な限り取り除く作業が行われており、ルーペをのぞきながら、繊維を少しずつ除去する様子を初公開します。
高精細のデジタル鑑賞が楽しめる「TSUMUGU Gallery」では、普賢菩薩像の細部までクローズアップして見ることができます。詳しい作品解説とともにお楽しみください。
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