(Kimono: Kyoto to Catwalk 展の会場から)

2020.10.21

【ソフィーの眼】ロンドンV&Aの着物展

コロナ禍で一時閉館していた英国の美術館・博物館が開き始め、ロンドンでも、中断されていたヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)の 「Kimono: Kyoto to Catwalk」(着物―京都からキャットウォークへ) 展が再開した (10月25日まで) 。見たかった展覧会をようやく見に行くことができた。

着物は世界で最も親しまれ、愛される日本発の創作品の一つだ。この春は偶然にも、米マサチューセッツ州にあるウースター美術館でも着物展 (2021年に延期) が予定され 、東京国立博物館ではこの夏、 特別展「きもの KIMONO」 が開催された。日本の内外で、着物は人を引きつけてやまない。

V&A で開かれているのは、英国では初の本格的な着物展だ。1660年代から今日までの美の流行の変遷をたどりつつ、その時々の着物の存在意義、外の文化からの影響・外の文化への波及といったところにまで視野が及び、関連美術品や現代グローバル・ファッションにも踏み込んでいる。入場者にとっては、一度に数多くの着物を見られる、ありがたい機会でもある。ロンドンで普段見られる着物は、V&A や大英博物館で常設展示されている数点しかない。

着物とは「着る物(衣服)」のことでしかない。19世紀になってから使われるようになった言葉だが、今は包括的に「日本の伝統衣装」を指して用いられる。その歴史は1000年にもわたるが、日本のあらゆる階層の人々にとって主要な衣服となったのは16世紀に入ってからで、江戸時代に最も華やいだ。

V&A 展は、江戸時代を起点に時系列的な展示が行われており、ごく早い段階で、着物は(西洋の衣服と異なり、体形が強調されない)シンプルな丁字形に、際立った特徴があるのだと説明している。いくつかの布を直線に沿って縫い合わせることによって作られるこの丁字形が、技能、富、創造性、個性を鮮烈に表出するキャンバスとなった。

流水りゅうすい杜若かきつばた模様もよう打掛うちかけ
江戸時代・19世紀
(女子美術大学美術館)

その点で特に注目されるのは、「ハリリ・コレクション」のうちの日本着物コレクションから出品されている名品のいくつかである。「ハリリ・コレクション」 は、ナセル・ハリリ氏〔訳者注:イラン出身の慈善家〕が1970年から収集している美術品の一大コレクションで、分野が異なる八つのコレクションで構成されている(日本関連では、明治時代の美術品を集めたコレクションもある)。

このコレクションに含まれる着物がいかにぜいを凝らしたものかは、下の写真の振り袖から、その片鱗へんりんがうかがえる。〔明治から大正にかけての〕1905~20年に京都で作られたものとみられ、縮緬ちりめん地に筒描つつがき(友禅の技法)と型染め(型友禅の技法)が併用され、絹糸や金糸の刺繍ししゅうが施されている。自然界の色彩豊かなモチーフが贅沢ぜいたくにあしらわれている。

振り袖 1905-20年
(© Khalili Collection, K106)

最初のいくつかの展示室では、着物がガラスの向こう側で丁字形のスタンドに平らなままつるされ、織物の意匠をフルに楽しむことができた。とはいえ、着物はやはり衣服だ。先に進み、マネキンに着せられた着物を見ると、どのようにまとうものなのかがよくわかり、着ると着物がどのように形を変えるのか、想像してみることもできた。

展覧会は大いに楽しませてもらったのだが、正直なところ、展示室に流れる効果音には戸惑いを覚えた。波、風、楽器の音などがサウンドスケープ(音の風景)を形成し、今はそういったものが必須とされるイベントもあるようだが、目の前の展示物とたいした関係があるとは思えず、時々うっとうしくさえ感じた。

「世界の着物」と名づけられたコーナーは、特記に値する。19世紀後半に入って、日本が開国すると、日本の織物は世界のアパレルやファッションに趣向や商取引といった面で大きな影響を与えるようになった。その劇的な変化に着目している。ファッショナブルな西洋の家庭は着物に夢中になり、そのことは当時描かれたいくつもの絵画からもうかがえる。面白いのは、欧州の織物―18世紀の中頃、仏リヨンで作られたブロケード〔訳注:錦・金襴きんらん〕―で江戸時代に作られた唯一と思われる着物(振り袖)がこの V&A に所蔵されており、展示されていることだ。

近年 V&A で開かれ、大成功を収めてきたアレキサンダー・マックイーンやディオールといったブランドのファッションショーにならい、この着物展でも終盤は、劇的なビジュアル効果が見る者を楽しませる。円形の展示室では、数十点はあろうかという、様々な色と文様の着物が床から天井にかけて陳列され、その一つ一つがガラスのボックスに収められている。最後の展示室では、その巨大な展示空間に、日本やそのほかの国で作られた衣装が数多く並べられており、着物が20世紀半ばから、様々な変容を遂げてきたことがわかる内容となっている。日本では、着物を身につける人が減っているというが、世界のデザイナーたちはその着物から、いまだに様々な着想を得ているのだ。

(Kimono: Kyoto to Catwalk 展の会場から)
(Kimono: Kyoto to Catwalk 展の会場から)

伝統的で、時と共に変化するものではないと捉えられることもある着物だが、この展覧会では、様々な意味を含有し、世界のファッションに影響を与え続けてきた、ダイナミックな衣服として紹介されている。ファッション史において、着物がどれほどユニークかつ魅惑的な存在なのかを、この展覧会は教えてくれる。

ソフィー・リチャード

プロフィール

美術史家

ソフィー・リチャード

仏プロヴァンス生まれ。エコール・ド・ルーヴル、パリ大学ソルボンヌ校で教育を受け、ニューヨークの美術界を経て、現在住むロンドンに移った。この15年間は度々訪日している。日本の美術と文化に熱心なあまり、日本各地の美術館を探索するようになり、これまでに訪れた美術館は全国で200か所近くを数える。日本の美術館について執筆した記事は、英国、米国、日本で読まれた。2014年に最初の著書が出版され、その後、邦訳「フランス人がときめいた日本の美術館」(集英社インターナショナル)も出版された。この本をもとにした同名のテレビ番組はBS11、TOKYOMX で放送。新著 The Art Lover’s Guide to Japanese Museums(増補新版・美術愛好家のための日本の美術館ガイド)は2019年7月刊行。2015年には、日本文化を広く伝えた功績をたたえられ、文化庁長官表彰を受けた。(写真©Frederic Aranda)

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