2020.2.14

【大人の教養・日本美術の時間】古代の鏡は、素材も用途も今と違う!

「銅鏡」(鮫島圭代筆)

現代の一般的な鏡は、何でできているかご存じですか? 

答えは、ガラスです。ガラス板の裏面に銀などの金属をメッキしているのです。金属は光るため、物の形を映すことができるのですね。ガラス製の鏡は、16世紀にイタリアで生まれ、板ガラスの製作技術の向上とともに世界に広まりました。

一方、古代日本で作られた鏡はガラス製ではありません。

素材は、銅にすずや鉛を加えた合金、つまり青銅です。青銅を溶かして型に流し込んで、成形しているのです。そして物が映りこむよう、表面をつやつやに磨き上げています。青銅製なので、「銅鏡」と呼ばれます。

博物館で銅鏡を見たことはありますか。たいてい、青錆あおさびており、全体が円形で、表面に文様や文字が凹凸おうとつで表されていて、中心に突起がついていますね。

この文様のある面が、実は鏡の裏面にあたります。そして突起にひもを通して手で持つようになっています。美術品としては、裏面のでこぼこの装飾が見どころなので、博物館では裏面を見やすいように展示しているのです。

そして反対側、つまり鏡の表面はつるつるです。長い年月を経て錆びる前、つまり古代にはくっきりと物の形や人の姿を映すことができました。

日本に「鏡」がやってきた

こうした形式の銅鏡が誕生したのは、今から約2500年前の古代中国です。

そして紀元前にさかのぼる弥生時代に、中国や朝鮮半島で作られた銅鏡が、日本にもたらされるようになりました。やがて国内での生産も始まり、朝鮮半島から鋳造技術を持つ人々が渡来して生産が拡大したようです。文様が多様化し、特大サイズの鏡や、周囲に鈴をつけた鏡も作られました。

奈良県の北西に今も立つ、鏡作かがみつくり神社じんじゃの周辺には、古代、鏡作り職人の集団が住んでいたと伝わります。この神社には、日本神話に登場する鏡作りの女神・伊斯許理度売命いしこりどめのみことまつられています。今も、鏡の生産者や美容師などが多く参拝に訪れるそうですよ。

みなさんは朝、鏡で身だしなみを整えますよね。でも古代日本の人々は、おしゃれのために使ったのではなく、太陽や月の光を反射する鏡に畏怖の念を抱き、魔よけやまじない、祭りの道具として使ったようです。

私たちは鏡で自分の姿を見ることに慣れきっていますが、古代の人々は科学的な知識を持たなかったので、なぜ映るのか不思議だったでしょう。きっと神秘的な力を感じていたはずです。現代でも、鏡が割れると不吉だとか、使わない時には布をかけておくなどの言い伝えが残っていますね。

古代、集団のリーダーは権力を誇示するために、勾玉まがたまや銅剣などとともに、銅鏡を所有しました。そして、その死後には、墓に副葬品としておさめました。そのため、弥生時代や古墳時代の甕棺かめかんや古墳からは、大量の鏡が出土しています。

特に強大な勢力を持ったのが、奈良の大和政権でした。たくさんの銅鏡を製造して、巨大な古墳に埋納したのはもちろん、権威の象徴として、ほかの地域のリーダーたちに与えたようです。

卑弥呼ゆかりの品? 古代の鏡はいまだ謎だらけ

ところで、銅鏡の裏面には、文様や文字が鋳出いだされていることはお話ししましたね。

そうした文様には古代の人々の思いや世界観が反映されており、そのデザインにもとづいて鏡の種類が名づけられています

たとえば、「方格規矩ほうかくきく四神鏡ししんきょう」は、円形のなかに正方形が表されているのですが、これは古代中国の「大地は正方形で、天がそれをドームのように覆っている」という宇宙観を表したデザインです。さらに、天の東西南北をつかさどるとされる四神ししんも鋳出されています。四神は、東の青龍・西の白虎・南の朱雀・北の玄武からなり、奈良県の高松塚古墳の壁画に描かれていることでも有名ですよね。

重要文化財 画文帯神獣鏡・三角縁神獣鏡(部分)奈良県天理市 黒塚古墳出土 古墳時代・3世紀 文化庁蔵(奈良県立橿原考古学研究所保管)

そして、特に有名な銅鏡の種類といえば、「三角縁さんかくぶち神獣鏡しんじゅうきょう」です。ふちの断面が三角形になっており、古代中国の神話に登場する仙人や霊獣が表されています。

三角縁神獣鏡は、かつて、古代史研究の世界で大きな論議を呼びました。

論議の発端は、島根県の古墳から出土した三角縁神獣鏡に、「景初けいしょ3年」という年号が刻まれていたことでした。これはいわくつきの年なのです。

ここで登場するのがご存じ、邪馬台国の女王・卑弥呼です。中国の歴史書『三国志』の「魏志倭人伝」に、「景初3年に、卑弥呼が、中国・魏の皇帝に使いを出して貢ぎ物を贈り、皇帝から金印や100枚の銅鏡などを与えられた」ことが記されているのです。

そのため、「三角縁神獣鏡こそ、卑弥呼が魏の国王から贈られた鏡ではないか」といわれました。

三角縁神獣鏡は近畿地方で特に多く出土しているため、「邪馬台国は日本列島のどのあたりにあったのか」という長年の論争とともに、この説が注目されたのです。

数千年をさかのぼる古代の宝物には、まだまだ謎がたくさん残されています。だからこそ、そうした論争も盛り上がるといえるでしょう。

そんな古代史のロマンにおもいをはせながら、実物を見に出かけませんか。 東京国立博物館で2020年3月8日(日)まで開催中の「日本書紀成立1300年 特別展『出雲と大和』」では、全国最多、33面もの三角縁神獣鏡が出土した奈良県・黒塚古墳の銅鏡もご覧いただけます。

【日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」】

東京国立博物館 2020年1月15日(水)-3月8日(日)

公式サイトはこちら

https://izumo-yamato2020.jp/

鮫島圭代

プロフィール

美術ライター、翻訳家、水墨画家

鮫島圭代

学習院大学美学美術史学専攻卒。英国カンバーウェル美術大学留学。美術展の音声ガイド制作に多数携わり、美術品解説および美術展紹介の記事・コラムの執筆、展覧会図録・美術書の翻訳を手がける。また水墨画の個展やパフォーマンスを国内外で行い、都内とオンラインで墨絵教室を主宰。https://www.tamayosamejima.com/

開催概要

日程

2020.1.15〜2020.3.8

9時30分~17時
※毎週金曜、土曜日は21時まで開館(入館は閉館の30分前まで)

会場

東京国立博物館 平成館
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9

料金

一般1600円、大学生1200円、高校生900円など

休館日

月曜日、2月25日(火)
※2月24日(月・休日)は開館

お問い合わせ

03-5777-8600(ハローダイヤル)

Share

0%

関連記事Related articles

編集部からFrom the Editor

一覧ページへ