2020.4.1

【ボンボニエールの物語vol.17】ひな祭りとボンボニエールの物語

山階宮家所用 銀製ひな道具 (学習院大学史料館蔵)
ひな道具とボンボニエール

3月3日はひな祭り。毎年この時期になると全国各地の美術館・博物館では「ひな祭り」を特集とした展覧会が開催されていたが、今年は休館となってしまったところも多い。その代わりと言ってはなんだが、せめてこのウェブサイト「紡ぐTSUMUGU: Japan Art & Culture」上で旧暦のひな祭り(今年は3月26日)をお楽しみいただければと思っている。

大名家や商家などがぜいを尽くしたひな人形とひな道具はいつまでも飽くことなくていられる。特にひな道具は、日本美術、工芸の匠の技が惜しみなく投入されたミニアチュールの粋。ボンボニエールに通じるところが多くあるのである。

実際、ボンボニエールがまだあまり知られていなかった頃(今でもメジャーになったとは言い難いが)、「ひな道具」として骨董こっとう品店や、オークションで販売されているものをよく見かけた。漆のボンボニエールや、明治期に多く作られた銀製のひな道具は、単独で出てきたらボンボニエールとの区別をつけるのは至難のわざである。そこで私の勝手なボンボニエール・ひな道具区別ポイントをあげてみよう。

  • 菊御紋が付いていたらボンボニエール
  • 蓋や引き出しが開かない場合はひな道具であることが多い(と思っていたが、根津美術館開催の「虎屋のおひなさま」展に陳列されているお道具類は小っちゃいのに、ちゃんと開く!)
  • 例えば、貝桶に貝などの中身が入っていたらひな道具

――という感じだが、皆さまはどう思われるだろうか。

貝桶形ボンボニエール  径4.0cm×高5.5cm (学習院大学史料館蔵)  
ひな道具・貝桶(真多呂人形提供)
香淳皇后のお印・桃文様のボンボニエ―ル

ひな祭りはもともとは「上巳じょうしの節句」といい、桃の花が咲く季節であることから「桃の節句」とも呼ばれる。ひな人形に桃と菜の花を添えて飾ると何とも春らしい、華やいだ雰囲気になる。

皇室でもこの日は桃の節句にちなんだ飾りやお供え物をする。『宮中 季節のお料理』(扶桑社)の写真からは、御所の和室に、ひな人形や雅楽を奏する伶人れいじんの人形が飾られ、その前にお供えの三宝さんぽうが9個並べられている。

三宝には菱餅ひしもち、真白い薯蕷じょうよ饅頭まんじゅうに赤い点をつけた愛らしい笑顔饅えがおまんはまぐり、桜餅、海苔巻のりまき鯛押寿司たいおしずし栄螺さざえ、ひなあられ、さおもの菓子の大海原おおうなばら、ねりもの菓子の桃型がそれぞれ載せられている。これは毎年同じものが供えられる。そしてお節句にちなんだお夕食も召し上がられる。このお節句料理を召し上がる習わしは上皇・上皇后陛下がはじめられたと言う。

ひな祭りにちなんだボンボニエールといえば、やはり「桃」のものであろう。

桃形 昭和9年(1934年)12月22日 北白川宮佐和子女王御結婚御送別 6.3×3.2×4.1cm(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)

ずばり、桃の形そのもののボンボニエールは、以前ご紹介した、北白川宮きたしらかわのみや佐和子さわこ女王と東園ひがしその基文もとふみが昭和9年(1934年)12月22日に結婚した際の、北白川宮家での送別の際のものである。⇒【ボンボニエールの物語vol.14】皇室 新年の物語 その2

佐和子女王のお印である桃が、そのまま径3cmほどのボンボニエールとなっている。おそらく中には金平糖などの菓子が入っていたと思われるが、桃太郎が飛び出してきてもおかしくない風情を醸し出しており、遊び心が感じられる一品である。

桃印は昭和天皇の皇后・良子ながこさま(香淳皇后こうじゅんこうごう)のお印でもあった。写真は昭和48年(1973年)3月9日に開かれた古稀こき御祝記念のお茶会の際のボンボニエール。径6.0㎝の銀製香合形の蓋部分に桃の枝が彫られており、花のしべの部分には金があしらわれている。優しく美しいボンボニエールである。

丸形桃枝文 昭和48年(1973年)3月9日 香淳皇后古稀御祝記念茶会 径6.0×高2.2cm(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)

その後の昭和58年(1983年)4月27日の八十賀御内宴、平成3年(1991年)3月6日の米寿記念の際にも桃文様のボンボニエールが作られた。明治36年(1903年)の桃の季節、3月6日にお生まれになった香淳皇后、そしてひな祭りにふさわしいボンボニエールでもある。

長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

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