2020.6.5

「ボンボニエールの物語vol.24」祈り・祝いのボンボニエールの物語

亀置物形 皇太子妃(貞明皇后)お風邪平癒お祝い
明治44年(1911年)10月10日  4.7×5.5  高さ4.0 ㎝(個人蔵)

前回は、新型コロナウイルス感染症に命がけで立ち向かっている医療従事者の方々への感謝の気持ちを表すことに関連したボンボニエールをご紹介したが、今回は病気回復祝いのおめでたいボンボニエールと、祈りの形である「折り鶴」のボンボニエールの物語である。

病気回復祝いのボンボニエール

新型コロナウイルス感染症がこれほど爆発的に広まったのは、文字通り「新型」で、ワクチンも薬もないからである。現在ワクチンや新薬開発が世界各国で進められており、1~2年のうちには(もっと早いとの観測も)完成するのではないかとのことである。

こういったワクチンや薬が開発されるようになったのは、比較的最近のことであり、それまでの長い間、病気流行中はひたすら家に閉じこもり、感染した場合には、寝る、滋養の高いものを食べる、といったことで対処していた。

この状況は、皇室でも同じであった。大正7年(1918年)1月から同9年(1920年)12月までの間に世界で5億人が感染し、5000万人が死亡したと言われるスペイン風邪。当時17歳だった裕仁親王(昭和天皇)も感染された。『昭和天皇実録』の大正7年11月3日の項には「流行性感冒と診断され、直ちに御仮床ごかしょうにお就きになり、以後十五日の御床払おとこばらいまで安静に過ごされる」との記述がみられる。

竹田宮恒久王たけだのみやつねひさおうはこのスペイン風邪感染により、大正7年4月、36歳の若さで逝去された。

話が遡るが、明治44年(1911年)秋、皇太子妃節子さま(貞明皇后)は風邪を召された。かなり長い間、病に伏せられていたのか、回復されたことを喜ばれた皇太子嘉仁よしひと親王(大正天皇)は、10月9日と11日に平癒お祝いとして皇族、宮内省関係者に午餐ごさんをふるまっている。 

10月10日には、裕仁親王、雍仁やすひと親王(秩父宮)、宣仁のぶひと親王(高松宮)の3皇子と聡子としこ内親王(明治天皇第9皇女)を招き、(おそらくはフランス料理フルコースの) 晩餐会ばんさんかいを開催した。この晩餐会は裕仁親王(もちろん弟宮たちにとっても)初めての正式な晩餐であった。そして、晩餐会の後に記念品として配られたのが、亀置物形のボンボニエールである。

「鶴は千年、亀は万年」と言われるように、亀は縁起が良いとされる。3匹の亀は親子のようでもあり、3皇子のようにも見えてくる。

折り鶴モチーフのボンボニエール

亀と同様、吉祥である鶴もボンボニエールに頻繁に用いられる文様である。その鶴の中でも、 折り鶴をモチーフとしているものがある。

折り鶴は折り紙の定番。この 折り鶴を何羽も糸でつないで、すだれのようにしたものが千羽鶴であり、病気になった方へのお見舞いにしばしば贈られるが、なぜこれがお見舞いの定番となったのかは判然としない。『折り鶴百科』(ブティック社、2002年)には「折り鶴は遊戯折り紙として作られ始め、女性や子供の遊びとして普及し、伝承されて来たのですが、もう一方で、祈りを込めるために折り鶴を折り、祈願成就のために神社に奉納するという信仰の形による伝承のされかたもありました」「一羽でもありがたい鶴を何羽も糸でつないで奉納するのです。それは、千羽鶴と呼ばれ、今日でもよく見かけられる習慣です」とあり、神への祈りを込めることから、病気回復願いともなったのだろう。

ここでご紹介する 折り鶴モチーフのボンボニエールは病気見舞いではなく、結婚と誕生という、大変喜ばしい事柄のもの。結婚の方は、銀の卵形の上に銀製の折り鶴が乗っている美しい形である。

折鶴形 北白川道久・島津慶子結婚 昭和41年(1966年)10月8日
6.0×最大幅4.2(鶴5.5)高さ6.5 ㎝(個人蔵)

誕生の方は深川製磁製の六角形白磁の表面に色絵で鮮やかな 折り鶴が3羽あしらわれている。愛らしい一品である。

六角形折鶴文 彬子女王殿下御誕生内祝い 昭和56年(1981年)12月20日
6.4×7.3 高さ2.9 ㎝(深川製磁蔵)

やはり、ボンボニエールにはお祝い事が似合う。喜びの小箱なのである。

長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

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