先のとがった棒で、細かなアワビ貝の薄片が十二角形のグラスの底に丁寧に貼り付けられていく。富山県高岡市内にある
高岡漆器は加賀前田家2代目の前田利長の産業振興策として、江戸初期に始まった。木地、加飾、塗りと伝統的な分業体制を敷く。1975年に伝統的工芸品として国の産地指定を受け、80年代は販売額が20億円を超え、工房前には問屋の列ができたという逸話もある。しかし、90年代半ばから販売額が激減。高岡市によると、2020年は約2億3000万円に落ち込んだ。職人も減り、後継者不足も深刻な課題となっている。
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「もし木地屋がいなくなっても生き残れるよう、樹脂や金属といった素材に螺鈿を施せないかと試みています」と話す剛嗣さん。2004年に工房入りした時から危機感があったといい、同じく螺鈿師で妻の裕実さん(42)と「若い人にも使ってもらえる物を」と、スマホのカバーや食洗機対応の箸など現代の暮らしに見合う製品を作ってきた。
最近はSNSで発信し、遠方からの発注も増えた。海外を見据えた螺鈿でドクロと炎をあしらったスケートボードは今年の全国漆器展で日本漆工協会理事長賞を受賞した。
次の目標は普段使いできる螺鈿細工のアクセサリーへの展開だ。柔軟な思考で現代に伝統の技を生かす姿が、そこにある。
(2022年10月26日付 読売新聞朝刊より)
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