文化審議会は11月18日、4件の国宝と47件の重要文化財を新たに指定するよう、文部科学相に答申した。旧石器時代の石器群が初めて国宝指定とされ、本土復帰から50周年となる沖縄県の貴重な史料が重文に選ばれるなど、幅広い時代・地域の文化財を守り伝える狙いが強く込められた。
石器群「北海道白滝遺跡群出土品」(北海道遠軽町)は、後期旧石器時代の約3万~1万5000年前に作られた計1965点。石材の破片を組み合わせた接合資料から、黒曜石の原石から石器への作製過程が分かる。1949年の岩宿遺跡(群馬県)の発掘調査から続く日本の旧石器時代研究の中でも、優れた学術的価値が評価され、最も古い時代の国宝となる。
重文となる「琉球国王朱印状」(沖縄県)は、国王から宮古島の役人に宛てられたもので、1609年に島津氏に征服される以前の「古琉球」時代の第一級史料とされる。「絹本著色雪舟等楊像」は、室町時代の画僧・雪舟の自画像(現存せず)を江戸時代に全国的に名をはせた萩藩絵師、雲谷等益・等与父子がそれぞれ模写したもの。今回、山口県に伝わる2幅が重文答申を受けた。江戸時代の各地に花開いた豊かな絵画文化を象徴する作品としても重要だ。
皇室ゆかりの美術工芸品が、今回も新たに国宝・重要文化財に指定される。
宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する作品で国宝に指定されるのは、中国・晋時代に活躍した「書聖」王羲之の書簡を唐代に写した模本「喪乱帖」、菅原孝標女が著した「更級日記」の最古の写本(藤原定家筆)、金沢藩主前田家に伝来した「万葉集」の古写本(平安時代)の3件。
重要文化財には、明治時代を代表する金工作家海野勝珉による「銅色絵蘭陵王置物」、南蛮屛風の初期作のひとつ「南蛮人渡来図」、28の都市などが描かれた「世界図」が指定される。
皇室ゆかりの文化財では、2021年に「唐獅子図」(狩野永徳筆)や「動植綵絵」(伊藤若冲筆)など5件が初めて国宝に指定されており、今回の指定で国宝は8件、重要文化財が3件となる。
重要文化財に指定される「木造神像」20体がまつられる丹生川上神社(奈良県東吉野村)は、675年創建とされる古社だ。江戸・文政年間に建てられた本殿は、檜皮葺きの屋根に、花鳥の彫刻が施された欄間、彩色の跡が残る壁面など、荘厳で美しい姿を残す。
主祭神の「罔象女神坐像」は、ほほえみをたたえ、えくぼが彫られている。20体は平安~鎌倉時代(11~13世紀)の作とされ、金箔を細く切って文様を描く截金や彩色が残るものもあれば、真っ黒く焼け焦げた姿のものも。
宮司の日下康寛さん(68)は、「本殿の左右には、東殿、西殿もあります。こんな山の中に、こんなに立派なお社があり、それを村の人たちだけで守り継いできたことに胸を打たれました」と2007年の着任当時を振り返る。
ただ、村だけでは、神社もそこに伝わる文化財も守れないと思い立ち、県に本殿などの文化財指定を働きかけた。その中で、神像の価値も評価され、19年には大英博物館で開かれた特別展にも2体が出品された。
日下さんの好きな言葉は「歴史への参加」という。「名前も残らない人たちの祈りがあって、戦禍でも運び出されるなど大切に守り継がれてきた。今は私がその役を担い、また次の世代へと歴史がつながることをうれしく思う」
滝山寺本堂(愛知県岡崎市、重要文化財)の「日光月光菩薩立像」と、「十二神将立像」は、合わせて重要文化財指定が答申された。
お寺の縁起によると、秘仏本尊「薬師如来像」の左右に安置される両脇侍と付き従う眷属として、仁治3年(1242年)から制作され、建長2年(1250年)に完成したという。ユニークな顔立ちや着衣、手に持つ武具などは類例がなく、「とりわけ十二神将は異色の作品として注目される」(文化庁)と評価された。
地域の企業などで作る特定NPO法人が、滝山寺はじめ寺社の文化財の保存修理に取り組んでいる。住職の山田亮盛さん(71)は「未来に継承しなければと、責任の大きさを感じている。今後は、地域の宝の素晴らしさを改めて伝えるため、週末など、公開の機会を増やすことも検討したい」と話している。
(2022年12月6日付 読売新聞朝刊より)
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