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2024.5.2

待ってました! 芝居小屋の春 ― 飛び交うおひねり どよめき、歓声、一体感

江戸時代の風情をそのままに歌舞伎見物を楽しめる芝居小屋。コロナ禍では公演ができず苦しい状況が続いたが、やっと春が戻ってきた。(文化部 武田実沙子)

金丸座

5年ぶり「こんぴら歌舞伎」 

街中に掲げられた色とりどりの歌舞伎のぼりと満開の桜が、5年ぶりの「四国こんぴら歌舞伎大芝居」の幕開けを祝った。現存する日本最古の本格的な芝居小屋「旧金毘羅大芝居(金丸座)」(香川県琴平町)で今月〔2024年4月〕、松本幸四郎さんや中村雀右衛門さん、中村鴈治郎さんらが出演する公演が開催された。

招き看板や絵看板が掲げられた金丸座

国の重要文化財に指定されている金丸座で、歌舞伎公演が復活したのは1985年。その後、毎年行われ、春の風物詩となっていたが、2020年に新型コロナの感染拡大で公演が中止になり、改修工事の実施もあり、開催が見送られてきた。

「羽衣」で、江戸時代の宙乗り機構を生かして舞う中村雀右衛門さん(松竹提供)

今年はこの日を待ちかねた人たちが各地から訪れ、片岡英樹町長(54)は「金丸座が『待ってました!』と言っているよう」と晴れやかな表情を浮かべた。腰をかがめて鼠木戸ねずみきどをくぐった観客は、木で区切られた枡席ますせきにひしめき合うように座った。手が届くかと思うほどの距離での熱演に、感嘆のため息が漏れた。

相生座

7年ぶり 中村屋一門公演

一方、「美濃歌舞伎博物館 相生座」(岐阜県瑞浪市)では今月〔2024年4月〕15日、中村屋一門による「春暁歌舞伎特別公演」が行われた。芝居小屋やホールを会場にした巡業で、相生座では2017年以来となる。

歌舞伎のぼりがはためく相生座

舞踊「舞鶴ぶかく五條橋」は、中村勘九郎さんが体調不良のため、弟の中村七之助さんが代演。女形として常盤御前を演じた後、なぎなたを手に弁慶の姿で花道に登場すると、380人の観客からどよめきと歓声が起きた。おひねりが飛び交う芝居小屋ならではの一体感に後押しされるように、見事に2役を勤めた。

文化財として再評価 維持管理に課題も

「原点残していきたい」 

江戸時代から昭和初期に建設された芝居小屋は、高度成長期前後に娯楽の多様化などで解体や閉鎖が相次いだが、その後、文化財として再評価され、修復、再開場の流れが進んだ。保存や活用に取り組む団体などで作られる「全国芝居小屋会議」には、15か所ほどが名を連ねる。公演が活発に行われる一方、建物の維持管理や運営には課題もある。

金丸座は1835年(天保6年)に建築され、1976年に天保期の姿に復元された。2003年に耐震補強をし、20~22年にも壁や天井を補強する工事が行われた。その事業費2億2500万円は国が半分を補助したが、人口8000人の町には軽くない負担だ。片岡町長は「江戸時代の芝居小屋が残るここでしかできないという使命がある」と力を込める。

金丸座の回り舞台は商工会青年部が人力で動かす(松竹提供)

今公演では、背もたれのある席も用意されたが、階段での移動や長時間の着席が難しい高齢者の姿も見られた。舞台建築に詳しい日大工学部の浦部智義教授は「芝居小屋は客席の密度感や、自然光を使った演出なども魅力だ。元の姿を大切にしながらも、時代に合わせて活用していくことがよいのではないか」と話す。

相生座は地歌舞伎の拠点でもある。江戸時代から地域に根ざしてきた美濃歌舞伎の公演が、子どもからお年寄りまでが参加して毎年秋に披露される。子どもたちは普段から浄瑠璃や舞踊の稽古にも励む。

公共の施設ではなく、運営は民間が担う。建物の屋根が破損した際には、全国の支援者に手紙を出し、修理費500万円を集めた。衣装の管理や大道具の製作なども自ら取り組む。

館長の小栗幸江さん(76)は「歌舞伎は音楽や衣装、かつらなど、様々な芸術の集まり。歌舞伎の底が揺るがないように土固めをし、原点を残していきたい」と話している。

康楽館(秋田県小坂町)
ながめ余興場(群馬県みどり市)
かしも明治座(岐阜県中津川市)
内子座(愛媛県内子町)
八千代座(熊本県山鹿市)

(2024年4月24日付 読売新聞朝刊より)

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