「美術工芸品保存桐箱製作」
鈴鹿五郎さん 76(大阪府大東市)
文化庁は今年度、文化財の保存に必要な選定保存技術の保持者に「美術工芸品保存
桐箱 製作」の鈴鹿五郎さん(76)ら3人と2団体を追加認定した。また、新たに「屋根瓦製作(琉球瓦)」など4件を選定保存技術に選び1団体と保持者3人を認定した。
「多くの皆さんの後押しがあって保持者に推薦されたのだと思う。でも本当に認定され、びっくりした」と率直に語る。
大阪市で指し物製作を営む家に生まれ、大学中退後、父親に師事した。茶道具や陶磁器用の木箱製作を手始めに、漆工品など工芸品全般の桐箱製作に取り組んだ。
日本では書画や工芸品の保存のため、伝統的に桐製の保存箱が用いられてきた。桐箱には箱外の温湿度の変化にも緩やかに適応する性質があり、美術工芸品を安定した環境の中で保存管理するうえで有効なためだ。
特に、鈴鹿さんが製作した保存箱は吟味した国産材をあらかじめ水処理し、さらに1年間、干している。そのことにより、桐材に含まれる「有機酸」を減らせた点に特長があるという。
「有機酸の濃度が高い状態の箱に長期間保存すると、美術工芸品を傷める恐れがあるのだそうです。桐箱の表面が部分的に茶色っぽく変色しないよう独自に工夫を凝らしたことが、結果として濃度を低くすることにつながりました」
2010年から正倉院宝物の保存桐箱の製作に携わり、18年からは国宝・重要文化財の桐箱を手がける。複雑な形の工芸品であっても精巧な箱に仕上げている。
兄の佳二さん(78)と営む大阪府大東市の作業場が製作拠点だが、06年から岡山県に移住して電車で作業場を行き来し、桐材の乾燥などは空気がきれいな岡山で行っている。「箱の角が正確な90度の直方体・立方体を作るのは、実は難しい。工作機械と手作りの技術を組み合わせ、一つ一つ丁寧に注文の品を作り続けたい」と力を込めた。
(2024年9月7日付 読売新聞朝刊より)
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