
楽器は材料を確保し、職人が多岐にわたる工程を経て製作する。雅楽の楽器「
篳篥 」に欠かせないヨシを古くから供給してきた大阪府高槻市では、持続可能な保全の仕組みを整える活動が始まった。一方、伝統ある邦楽を衰退させないよう、苦しい状況でも三味線製造に取り組む業者や、手軽に始められる三味線の開発を行う会社もある。邦楽器だけではなく、歴史ある洋楽器の保存に熱意を持つ人たちも活動を続けている。各地の動きをリポートする。
楽器の「文化財」としての価値に光を当て、保存する動きもある。東京都港区教育委員会が所有するグランドピアノは、日本楽器製造(現ヤマハ)が1902~03年に製造した最初期のピアノで、全体が
ピアノは、大正天皇の
区教委の調査で、皇室との関わりや歴史的価値が明らかになり、2022年、区文化財に指定した。楽器として音が出るように修理するのではなく、国産グランドピアノの

漆は、紫外線や乾燥による劣化で、つやのない状態だった。単に塗り直すのではなく、ひび割れした塗膜に、漆を吸い込ませる「漆固め」を繰り返し、しっとりとした表面を徐々に取り戻している。

ヤマハは内部や
ピアノは26年春に区立郷土歴史館で展示される予定だ。
試奏や修復の見学も
三重県
展示ピアノの中心は19世紀から20世紀前半のもので、その多くは同館を運営する認定NPO法人の代表理事で調律師の岩田光義さん(83)が40年かけて集めた。4年前の開館時、音の出るものは4割程度だったが、十数人の調律師仲間が

鍵盤楽器は、音の強弱が付けられないチェンバロから、強い音も弱い音も出せるピアノへと進化した。そのピアノもかつては、現在よりか細い音で、鍵盤の数も少なかった。同館ではこうしたピアノの革新が見て取れる。また、ピアノとオルガンの音が同時に出せる珍しい楽器も展示。足が外れて持ち運びができるピアノは、「練習用というより、イメージが浮かんだ時、馬車での移動中でも作曲できるようにしたんでしょう」と岩田さん。
入館料1000円(大人)で、1人3台まで試奏でき、工房での修復の様子も見学できる。年代物のピアノによるコンサートホールとしても利用されている。
東京の老舗百貨店、日本橋三越本店では、95年前に導入されたパイプオルガンが今も来店客を楽しませている。2年前には約半年をかけ、未来に音色をつなぐための大規模修理を行っている。
10月上旬の週末の昼下がり。同店を象徴する吹き抜けの中央ホールを、多くの人が取り巻いていた。お目当ては、2階バルコニーでのオルガン演奏だ。開催中だったフランスの物産展にちなんで、仏国歌や「愛の
楽器は、米ウーリッツァー社の「シアターオルガン」で、無声映画などの伴奏用に開発され、オルガンで管楽器や打楽器、汽笛の音も鳴らすことができる。オルガンの左右にあるカーテンに覆われた部屋には、パイプのみならず、木琴、カスタネットなど様々な楽器が入り、オルガンについたレバーなどを操作し、鍵盤を弾くと連動して音が出る仕組みだ。近くに立つと生々しい響きが体感できる。


1930年、関東大震災からの復興が進む中、当時の専務が米国視察で訪れた百貨店のパイプオルガンに感動し、購入したという。戦中は、戦意高揚のための曲が演奏され、金属装飾の一部を供出した。しかし、本体の供出は免れ、45年11月13日の読売新聞には「宝くじ初の大当たり パイプオルガンの伴奏で抽選」という見出しが躍った。演奏が、ラジオで中継されることもあった。
2度の修理を経て、2009年には中央区の区民有形文化財に登録。23年には、パイプや打楽器が鳴らない不具合を解消するため、オルガン工房「マナ オルゲルバウ」(東京都町田市)が、鍵盤からパイプの一本一本まで解体する大規模修理を実施した。鍵盤からの信号を楽器に伝えるための絹糸や革袋が劣化していたため、工房ではコンピューター制御装置を独自に開発した。
約30年間、演奏を担当する高橋美香子さんは「オルガンらしい音も聴いてほしいし、曲の中で色々な音を聴いてもらえるように工夫している」と話す。 毎週金・土・日に15分の演奏を3回ずつ行っている。無料。

(2025年11月2日付 読売新聞朝刊より)
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