カリッ、カリッ――。国内産のシェア(占有率)約9割を誇る茶せんの産地・奈良県生駒市の高山町で、茶せん師の谷村丹後さん(59)が素早い包丁さばきをみせる。薄くなっていく竹の穂先が徐々に内側に弧を描き、ふんわりとした卵形になる。きめ細かな抹茶の泡を立てられる「真」と呼ばれる逸品ができあがる。
「高山
谷村さんは大学卒業後、輸入雑貨販売店の経営などを手がけ、30歳を前にして家業に就いた。「父親から『継げ』と言われたことがなく、継ぐ気もなかった。背中を見て育ったからでしょうか、途絶えさせるわけにはいかないと思うようになりました」
父の仕事を間近で見ながら技を習得し、42歳で20代目当主として「丹後」を襲名した。家族や近所に住む職人十数人と分業している。
流派や用途によって100種以上ある茶せん。工程は大きく五つに分かれる。竹の表面にある薄皮をむき、16本に割る。種類に応じてさらに竹を割り、包丁で穂先を薄く削る。へらで形を整え、穂の根元を糸で編んで仕上げる。
とりわけ重要なのが穂先を削る「味削り」だ。作業の良しあしで茶の味が変わるとされる。谷村さんは「各家の特徴が最も出るので、父親から最初に教わりました」と振り返る。「丈夫でしなやかな茶せんが理想。4種類ある竹の特徴に応じて仕上げることが求められます」と語る。
2022年からは、県高山茶筌生産協同組合の理事長を務める。茶道が花嫁修業の習い事として普及した戦後、組合員数はピークの55軒だった。趣味の多様化や安価な外国産茶せんの登場で、今は18軒にまで減少したという。
ただ、業界には明るい兆しもある。近年は海外での抹茶ブームで茶せんの需要が増え、工房見学も相次ぐようになった。コロナ禍では、インターネットでリモート講座を始め、制作実演や歴史の講義で愛好者の裾野を広げてきた。「お気に入りの茶せんを見つけ、気軽に抹茶を楽しむ人が増えてほしい」と願っている。
(大阪文化部 今岡竜弥)
(2023年9月27日付 読売新聞より)
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