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2025.11.27

【工芸の郷から】甲州印伝(山梨県)― 新柄積極的に 製法は堅持

JR中央線を甲府駅で降りると、改札すぐ横の土産物店に「甲州印伝」がズラリと並んでいた。財布や巾着、名刺入れ。軽く柔らかな鹿革に、漆で立体的な模様が付けられ、光沢を放つ。

伝統的な柄からモダンなデザインまで多彩な印伝の製品

甲州印伝は山梨県を代表する産品で、国の伝統的工芸品に指定されている。製造販売の老舗「印傳屋いんでんや 上原勇七」の起源は1582年に遡る。甲府市中心部の本店には、歴史を伝える「印傳博物館」があり、東名阪にも直営店を構える。

その工場は、市郊外の本社内にあった。伝統工芸士の大森幹雄さん(55)が、長いヘラで粘り気のある漆をすくい取り、型紙の上に均等にのばしていく。精密機械のようにまっすぐぶれない。漆ののった鹿革を丁寧に剥がすまで、無駄のない動きで作業が進む。「簡単に見えますが、熟練の技が必要なんです」と、上原勇七社長(65)が目を細めた。

漆によって模様がつけられた鹿革を丁寧にはがす

上原勇七は代々、当主が襲名し、当代は14代にあたる。「鹿革は繊維が細かいから漆が食い込んで固着しやすい。昔の人の知恵はすごい。理にかなっているのです」。「印伝」の名の由来は、かつて革製品がインドからもたらされたという「印度伝来」説がある。鹿革や漆は、武田家も武具に使用したと伝えられる。

印伝といえば、小桜、とんぼ、青海波といった伝統的な文様を思い浮かべるが、印傳屋のラインアップには、海外ブランド品のような現代的な装飾も目立つ。「1981年に東京・青山に出店して以来、洋服に合う新しい柄を意識して作っていきました。ファッションの街でお客様の声に耳を傾け、商品開発に取り入れています」

一方で、ふすべという伝統製法も続けている。伝統工芸士の神宮寺秀哉さん(54)はこの道一筋30年以上のベテランだ。太鼓と呼ばれる筒に鹿革を貼り、ワラを燃やした煙でいぶし、模様や色をつける。「まんべんなくずらしながら当てないと、ムラになってしまう」と、根気よく太鼓に向かう。30~40分の作業を12回繰り返し、少しずつ着色させていく。

煙で着色する燻製法

かつては5社あったという甲州印伝は、同社と「印傳の山本」の2社が残るのみだが、手間がかかる古来の手法も堅持しながら、伝統を守り継いでいる。(文化部 清川仁)

(2025年10月22日付 読売新聞朝刊より)

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