友禅や小紋の着物を彩る柄に、型紙を使って染められるものがある。伝統的な染色技法、型染めの型紙作りを担ってきたのが、伊勢湾を望む三重県鈴鹿市の
天板が傾いた「あて場」に顔を近づけた金子仁美さん(27)が手元をフッと吹くと、砂粒のような彫りくずが舞う。伊勢型紙は、数枚の和紙を柿渋で貼り合わせた型地紙を重ね、彫刻刀のような小刀で彫る。金子さんは、四つある彫刻技法のうち「
彫っているのは、穴が斜めに連なる「行儀」で、着物になると遠目には無地に見える。「
1センチ角に100の穴を彫る究極の技が「
群馬県出身の金子さんもその一人だ。高校3年の秋、テレビ番組で見た繊細な美しさに一目ぼれした。「一度きりの人生、好きなことを仕事に」と、京都伝統工芸大学校で和紙について学んだ後、鈴鹿に移住。「錐彫り」の名人、宮原敏明さん(85)のもとで5年間修業を積み、自宅を工房に独立して2年たつ。クラウドファンディングで資金を募り、型紙の文様をあしらった水筒を作って販売するなど、伝統的なデザインの生かしどころも模索する。
1週間のうち3日は、印刷会社の会社員としてフルタイムで働く。「インスタを見ると、東京で暮らす同級生はパンケーキを食べてキラキラしてて。こんな道もあったのかな」。揺らいだのは過去の話だ。「いろんな柄を彫れるようになる。そして、いつか師匠みたいに、誰かに伝える側になる。それが私にとっての『王道』です」(文化部 山田恵美)
(2025年8月27日付 読売新聞朝刊より)
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