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2023.7.27

【工芸の郷から】今風「手のひらサイズ」に活路 ― 八女提灯(福岡県)

下絵なしで筆を進める増永葵さんの手元(福岡県八女市のシラキ工芸で)

下絵なしの素早い筆遣いで、山水、草花といった涼しげな柄が次々と描かれていく。

提灯ちょうちんを手がける「シラキ工芸」(福岡県八女市)では、女性5人が、明かりがともされる「火袋ひぶくろ」と呼ばれる本体部分に、絵付けを行っていた。重視するのは内側からの明かりによって、絵が立体的に見えるかどうか。

起源は、江戸時代後期の八女で作られた、墓地などにつり下げられる「場提灯」とされる。分業制で作られ、火袋の型作りから、型への竹ひご巻き、和紙や絹の貼り付け、絵付けに至るまで、多くの職人の手が加わる。竹や和紙などの素材は地元で手に入るため、農家の副業として発展してきた。

しかし、取り巻く環境は厳しい。各工程のパーツ作りを担う職人は、高齢化などのため減少の一途をたどっている。シラキ工芸でも、1990年代には地区内外の約160人からパーツを仕入れていたが、今では約20人にまで減少した。「次世代の職人が育っていない」と危機感を抱いた2代目で社長の入江朋臣さん(49)は2011年から、若手職人を正社員として採用し始めた。現在、平均年齢約30歳の男女7人が働く 。

仏壇を置かない家庭も増え、年間生産量も最盛期の約40万個から約13万個にまで減った。「現代人のライフスタイルに合った提灯を」と、和洋になじむ手のひらサイズの提灯作りに挑んだ。高さ20センチほどの火袋の型を作る技術がなかったため、社員が専門学校に通い、「コンピューター利用設計(CAD)」を学び、型を設計するところから始めた。4年間の試作を重ね、全工程を自社で行うミニ提灯を作り上げた 。

モダンなデザインが目を引く手のひらサイズの提灯

モダンなデザインが特徴で、卵や三角、ツリーなどの形に、タンポポや波、稲穂、樹氷など四季折々の絵をあしらったシリーズが生まれた。21年から販売を始め、年間2000個ほどが売れているという。4月に新卒で入社した北村愛理彩ありささん(23)は「自分で提灯をデザインしたい」と意気込み、入江さんも「若い職人の力を生かして、年中使ってもらえる提灯を作りたい」と話している。

(西部文化部 井上裕介、写真も)

(2023年7月26日付 読売新聞朝刊より)

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