年輪のような断面が特徴の鉱物、めのう。焼き入れをすると、朱などつやのある色を発する。少しずつ切断した後、金づちを片手に、鉄の先端で形を整える「欠き込み」を施す。続いて、研磨剤の金剛砂を付け、機械で丁寧に削っていく。
福井県南西部・
「若狭めのう細工」は享保年間(1716~36年)、小浜市で玉の製造から始まった。彫刻の技法が編み出された明治以降は、杯や動物の置物などが作られ、国内随一の産地となった。
1976年、国の伝統的工芸品に指定された当時は、22業者が組合に加盟していた。その後、価格の安い外国製に押されるなど次第に低迷。上西さんは2016年に師匠が亡くなってから、ただ一人の技能者だ。
かつては原石を北海道から仕入れた。枯渇した1950年代後半からは、ブラジル産に頼ってきた。ただ、良質の石は少なく、上西さんは材料不足で注文を断ることもある。
「石を取りに来んか」。創業から約140年でのれんを下ろした業者の親族から、2019年に連絡を受けた。「自分一代では使い切れないほど」の量を譲り受けた。柔らかな赤みを帯びた北海道産が含まれている。一部が欠けて売り物にならなかった作品や、完成品の写真もあった。貴重な手本として、傍らに置いている。廃業した別の2軒からも原石をもらい、初めて「伝える役目を背負っているのかも」と自覚した。
「時代に合わせた伝統工芸品」を支援する福井県の事業で、京都のデザイナーの知恵を借り、1月末に新商品を発売した。「Kakikomi」と名付けたイヤリング。欠き込みの作業で出るかけらを利用し、好評だという。
「めのう細工は生活必需品ではない。でも、使う人の心に少しでも風を送れたら」。屋外に並べた原石を見つめ、上西さんはそう言った。
(大阪文化部 布施勇如)
(2023年3月22日付 読売新聞朝刊より)
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