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2023.2.10

【工芸品  次世代の作り手④】江戸小紋・小宮康義さん(東京都葛飾区)

布地に江戸小紋の柄を付けていく小宮さん(東京都葛飾区で)

工芸の分野は、国が重要無形文化財に指定する伝統の技法で制作するものから日本各地で継承されてきた実用品まで幅広い。日本の工芸は、作り手の後継者不足、生活スタイルの変化による需要減などの課題を抱えながら、新しい形や使い方で海外でも高い評価を得ている。伝統的な技法、素材を用いて、現代アートの作品を手がける作家の活躍もめざましい。ここに紹介する4人の作品を見ると、独創性に驚かされるに違いない。春には4人が出品する工芸の展覧会が開催される。未来を目指す工芸に、新しい日本の美を感じてみたい。

◇染織(江戸小紋)◇
小宮康義やすよしさん 40(東京都葛飾区)

斬新な柄 向上心忘れず

美しく染め上げられた江戸小紋(東京都葛飾区の小宮染色工場で) =今利幸撮影

薄暗い作業場を訪ねると、江戸小紋の制作に黙々と打ち込んでいた。型紙の上からのりを塗り、布地に精緻せいちな柄を付けていく「型付け」と呼ばれる作業だ。

「制作過程で最も難しい作業です」

生地と一色だけの染色で文様を描く江戸小紋は江戸時代に武士のかみしもや町人の着物を染めるために発達した技法。離れて見たときには無地のように見え、近づいて見ると多彩な文様が浮かび上がるのが特徴だ。

染料を塗り込んだ型をはがすと、江戸小紋の模様が現れる

曽祖父、祖父、父が重要無形文化財保持者(人間国宝)という染色職人の家に生まれた。家業を継ぐ気持ちはなかった。大学進学の条件として3か月間制作を手伝うように父に言われた。

「雑用ではなく、すぐに『型付け』に取りかかるよう言われました。作業がどんどん面白くなりました。今思えば江戸小紋の奥深さ、素晴らしさに気づくきっかけでした」

蜂の柄で染めた江戸小紋

卒業と同時に染色職人に。現在は代々受け継いだ伝統を基に、自分ならではの作品制作にも取り組む。「トランプ」「象」「川蝉かわせみ」など斬新な柄の作品で、いくつもの賞を手にした。それでも卓越した技術が自分にあるとは思っていない。そう思ったら向上心がなくなってしまうと言う。

「一日一日小さな発見を重ね、仕事の面白さを感じるなかで未来につながる作品を創り出したい」――その言葉に気負いはなかった。

1982年、東京都生まれ。2008年、東京造形大卒。17年、公募展「日本伝統工芸展」で日本工芸会奨励賞。

(2023年2月5日付 読売新聞朝刊より)

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