工芸の分野は、国が重要無形文化財に指定する伝統の技法で制作するものから日本各地で継承されてきた実用品まで幅広い。日本の工芸は、作り手の後継者不足、生活スタイルの変化による需要減などの課題を抱えながら、新しい形や使い方で海外でも高い評価を得ている。伝統的な技法、素材を用いて、現代アートの作品を手がける作家の活躍もめざましい。ここに紹介する4人の作品を見ると、独創性に驚かされるに違いない。春には4人が出品する工芸の展覧会が開催される。未来を目指す工芸に、新しい日本の美を感じてみたい。
表面の黒地に浮かぶ無数のデジタル数字。大きさや色、明るさは一つ一つ異なり、平面なのにサイバー空間が広がっているかのようだ。正体は、薄く切った貝殻を埋め込む
高校時代、世界遺産の修復ボランティアでネパールの首都カトマンズを訪れ、街中にあふれる装飾に強くひかれた。金沢美術工芸大で漆芸に出会い、人を引きつける不思議な色合いを表現できる螺鈿の道を選んだ。基礎的な技術や知識を学びながら、螺鈿の貝殻をより細かく、自由に切り出す技法を研究した。
作品に共通するテーマは現代社会の「情報」だ。自身の制作活動で何を主題に据えるべきかと考えたとき、現代社会を最も象徴するものとして頭に浮かんだ。デジタルフォントの数字をちりばめ、自身が抱く「情報」のイメージを具現化する。
目をつけたのは、繊細な加工に適したパルスレーザーだ。貝殻の表面にレーザーの熱をあてて、数字の形にミシン目状の小さな穴を開ける。もろくなった部分に水中で超音波の振動をあてて数字の形を分離させ、きれいに切り出せたものだけを使う。手作業では限界があった表現が螺鈿でできるようになった。
「1000年先まで残る作品」が目標だ。「後から振り返って、時代の転換点だったと言われるような作品を生み出したい」
1987年、千葉県生まれ。研修機関・金沢卯辰山工芸工房修了後、2019年に独立。3月に米ニューヨーク州で個展を控える。
(2023年2月5日付 読売新聞朝刊より)
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