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2023.6.13

奈良・興福寺で工芸やアート発信 訪日客が文化に触れる機会にと

長野さん(右)の実演に見入る外国人観光客ら

奈良市の興福寺は、南円堂(重要文化財)前の休憩所を工芸や芸術作品を紹介するスペースとして活用する取り組みを始めた。職人や作家らが発信する場とする一方、外国人観光客が奈良の伝統や文化に触れる機会を提供する。寺は「気軽に立ち寄り、記憶に残る滞在にしてほしい」としている。

休憩所で実演販売など

ススとニカワを混ぜて練った軟らかい生墨を、木型に入れて押し固める。創業約150年の墨工房「錦光園」(奈良市)の7代目墨匠・長野睦さん(45)が墨作りの工程「型入れ」を披露した。四角に成型された墨を取り出すと、静かに見入っていた外国人観光客から歓声が上がった。

〔2023年6月〕8日から始まった「すみからすみまで墨のおはなし」と題したイベント。「奈良墨」の製作実演や展示・販売、墨を試しずりできる書道体験コーナーを用意した。1時間で100人近くが訪れ、欧米や東南アジアの観光客の姿が目立った。

観光で訪れたスペイン人のエクトル・ウリバレナさん(40)は「日本の文化に関心があり、墨は知っていたが、原料や作り方を学べてもっと興味が湧いた」と喜んでいた。

奈良墨は経済産業相が指定する伝統的工芸品で、室町時代、興福寺で灯明のススを集めて作った墨が評判を呼んだのが起源ともされる。長野さんは「関わりが深い興福寺から墨の魅力を改めて発信し、伝統をつなぐ機運を高めたい」と意気込む。

大規模修理を控えた五重塔(左奥)の西に位置する休憩所

休憩所は奈良のシンボルとして知られる五重塔(国宝)の約120メートル西にある平屋建物。以前は売店だったが、1月に閉店した。活用を模索する中で、観光名所の猿沢池北側で多くの参拝者が行き来する立地の良さを生かし、貸しスペースを選んだ。利用料を低くして、県内外の若手作家らの発信に役立ててもらうことを目指す。

7月には五重塔で修理工事が本格化する。塔は全体が素屋根で覆われ、通行止めなどで人の動線も変わる。境内西側の休憩所でイベントを開くことで、工事中も参拝者が全体を巡回するように促す考えだ。

「すみから――」は11日までの開催で、その後も漆作家によるイベントなどを予定する。同寺の辻明俊執事長は「文化や技術の継承を担う職人、作家の活躍を後押しできる場にしていきたい」と話している。

(2023年6月10日付 読売新聞朝刊より)

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