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2024.9.11

【火祭り6】「選択無形民俗文化財」で継承後押し

松明たいまつに赤々と燃え盛る炎が長い帯になる吉田の火祭り(山梨)、市街地を取り巻く山々に文字や形が浮かび上がる京都五山送り火、傘から舞い落ちる華麗な火の粉が印象的なからかさ万灯まんとう(茨城)――。一口に「火祭り」と言っても由緒も形態も様々だ。地元住民はもちろん、観光客にとっても心躍る季節の風物詩となっている。一方、各地で担い手不足が深刻に。祭りの材料確保など継承に向けた課題も多い。石川県の能登半島各地に伝わるキリコ祭りは、元日の地震により大きな影響を受けた。

火祭りをはじめ、各地に伝わる民俗行事は担い手不足などから継承が困難になっているものが少なくない。これに対応するために国が設けたのが、「選択無形民俗文化財」の制度だ。

重要無形民俗文化財、登録無形民俗文化財とは別に、文化審議会の答申に基づいて「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」として文化庁長官(国)が「選択」した無形の民俗文化財の通称を、選択無形民俗文化財と言う。この制度は、時代の推移と共に変容することもある無形の民俗文化財を後世につなげるため、その記録と保存を主な目的として1954年に設けられた。

現在、民俗芸能、風俗慣習など全国で657件が選択されている。民俗文化財の保護の歩みの中では、制度の歴史も古く、重要無形民俗文化財の333件、登録無形民俗文化財の6件に比べても、その数は多い。

選択後は、国や都道府県、市町村が映像記録を作成するなど、その保存・活用に努めており、また、伝承の体制などが整ったら重要無形民俗文化財に指定されるケースもある。

各地の火祭り
角館の火振りかまくら
野沢温泉の道祖神祭り
鳥羽の火祭り
那智の扇祭り
大善寺玉垂宮の鬼夜

◇     ◇     ◇

人を集め 神や先祖の目印に

日本人、日本文化にとって火祭りはどのような意味を持っていたのか。民俗学が専門の神奈川大の丸山泰明准教授(49)=写真=に聞いた。

火には、ともす、暖めることにより、人を集める働きがある。そして人を集める火は、神や先祖の霊が訪れるための目印になる。例えばお盆の迎え火と送り火は、人が火をともすことで先祖の霊をお迎えし、そしてお見送りするものだ。家の前でがらを燃やす素朴なものから、軒先のちょうちんや庭の高灯籠、たくさんの松明を並べた百八灯まで、様々なものがある。

「清める」意味合いも

さらに、火には焼き尽くすという働きがある。焼き尽くすことは悪いものを清め、追い払うという考えにつながる。火花や火の粉を体に受けることで無病息災で過ごせるという意味合いが生まれる。これらも人を集める。こうしたことから火祭りは古来、全国各地で執り行われ、伝わってきた。

「吉田の火祭り」のように松明にともされたむき出しのたけだけしい火もあれば、「秋田の竿燈かんとう」のようにちょうちんの中にともされた柔らかな火まで、火祭りには多彩な形がある。

火祭りという言葉から、花火を思い浮かべる人も多いのでは。しかし、花火に欠かせない火薬が日本に伝わったのは16世紀のことだ。一瞬のうちに輝いてはすぐに消え、はぜる音を響かせる花火は、華やかさと切なさを祭りに加えた。日本人の生活の中に花火は深く根付いており、鎮魂や厄払いの意味を込めて打ち上げられる例は多い。新型コロナウイルスの退散を願って打ち上げられた花火も記憶に新しい。

家電製品が発達し、日常的に火を使わない一般家庭は今や珍しくない。コントロールできなければ危険な存在となる火を現代社会は日常から遠ざけてきた。しかし、火は人類の歴史と共にあり、欠かせない。火祭りにどのような祈りや願い、知恵、工夫が込められているのか。そんなことを思い浮かべながら、伝統の火祭りに出かけてほしい。

(2024年9月7日付 読売新聞朝刊より)

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