大松明に赤々と燃え盛る炎が長い帯になる吉田の火祭り(山梨)、市街地を取り巻く山々に文字や形が浮かび上がる京都五山送り火、傘から舞い落ちる華麗な火の粉が印象的なからかさ万灯(茨城)――。一口に「火祭り」と言っても由緒も形態も様々だ。地元住民はもちろん、観光客にとっても心躍る季節の風物詩となっている。一方、各地で担い手不足が深刻に。祭りの材料確保など継承に向けた課題も多い。石川県の能登半島各地に伝わるキリコ祭りは、元日の地震により大きな影響を受けた。
石川県の能登半島では、各地に「キリコ祭り」の伝統が受け継がれている。祭りの数は大小合わせて約200に上るとされ、文化庁の日本遺産にも認定されている。
キリコは神輿の足元を照らす灯籠で、大きいものでは重さ2トン、高さ15メートルにもなるという。祭りでは夜になると、氏子らがキリコを担ぎ出して町内を勇壮に練り回り、豊漁や豊作、疫病退散などを願う。
各地域では、それぞれ独特な形で祭りが発展した。七尾市の「石崎奉燈祭」は約100人の男衆が「サカサッサイ、イヤサカサー」と勇ましいかけ声をかける。輪島市の「輪島大祭」は、華麗な漆塗りのキリコが見ものだ。花火が上がる中、キリコを海中に担ぎ入れる珠洲市の「宝立七夕キリコまつり」も、毎年多くの観光客を楽しませてきた。
〔2024年〕元日の地震の影響で、キリコの巡行範囲を狭めたり、神事のみの開催としたりするなど、多くの祭りで規模の縮小を余儀なくされた。津波でキリコ数基が流されるなどした「宝立七夕キリコまつり」は残念ながら中止となった。
元日の地震の爪痕が残る中、7月5日、6日には能登町宇出津地区の「あばれ祭」が、今年のキリコ祭りの先陣を切って行われた。約360年の歴史を持ち、漁師町らしい荒々しさが特徴の祭りだ。広場や道路に隆起やひび割れが生じる中、高さ6メートルを超える巨大なキリコ約30基が地区内を練り歩いた。松明が掲げられた港近くの広場では復興への願いを込めたかけ声が響いた。
「あばれ祭運営改善協議会」の小浦肇会長(66)は祭りの存続が危ぶまれる事態の中でも、住民や関係団体と話し合い、開催にこぎつけた。「祭りを開催し、町全体の雰囲気は明るくなった。宇出津が開催したからうちもキリコをやろうと、近隣の町が言ってくれたのがうれしい」と話した。
(2024年9月7日付 読売新聞朝刊より)
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