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2024.9.11

【火祭り3 茨城・大畑のからかさ万灯】舞い落ちる火花 降雨願う

松明たいまつに赤々と燃え盛る炎が長い帯になる吉田の火祭り(山梨)、市街地を取り巻く山々に文字や形が浮かび上がる京都五山送り火、傘から舞い落ちる華麗な火の粉が印象的なからかさ万灯まんとう(茨城)――。一口に「火祭り」と言っても由緒も形態も様々だ。地元住民はもちろん、観光客にとっても心躍る季節の風物詩となっている。一方、各地で担い手不足が深刻に。祭りの材料確保など継承に向けた課題も多い。石川県の能登半島各地に伝わるキリコ祭りは、元日の地震により大きな影響を受けた。

雨粒のように火花が降り注ぐ「からかさ万灯」の仕掛け花火(2024年8月15日、茨城県土浦市で)=古厩正樹撮影

茨城県土浦市大畑おおばたけの鷲神社に伝わる祭礼「大畑のからかさ万灯」は、国の選択無形民俗文化財であり、茨城県指定無形民俗文化財でもある。今年〔2024年〕も例年通り、8月15日に披露された。

元々は雨ごいや五穀豊穣ほうじょうを願って江戸時代中期から続いているとされる仕掛け花火。点火された綱火は約50メートル先の唐傘本体に向かって稲妻のように一直線に導火線を走っていく。直径約5メートル、高さ約6メートルの唐傘本体に火が到達すると、その周りから火花が雨粒のように降り始め、会場からは大きな歓声があがった。直後には唐傘の上からも火花が四方八方に噴き出し、幻想的な雰囲気が会場を包んだ。

この祭礼は現在、同神社の氏子約180世帯でつくる「からかさ万灯保存会」のメンバーが中心となっている。「大畑地区は台地上に広がる畑作地で、古くから水不足に悩まされてきた土地。からかさ万灯の光の雨は、降雨を期待する農家の祈りを表現したものと言われています」と同保存会の石田良文会長(80)は由来を説明する。

火薬を扱う作業の多くは現在、法令などの定めによって花火師に依頼しているが、綱火など一部の仕掛けは今でも住民が製作している。わずか3分間の短い光の輝きの中に、住民がつないできた知識と経験が込められているのだ。

祭りの当日(2024年8月15日)に組み立てられたからかさ万灯

一方、保存会の役員らは年々高齢化しており、後継者の育成が大きな課題になっている。2020年からの3年間はコロナ禍のため開催が中止された。「このままでは、からかさ万灯を行う技術が途絶えてしまう」と役員らはこれまでにない危機感を抱き、22年冬には保存会の若手に声をかけて唐傘本体を組み立てる研修会を開いた。技術を伝え、将来に残すための初めての試みだった。

石田会長は「からかさ万灯を実際に見た人からは『素晴らしい伝統の祭りで感動した』という言葉をいただいている。祭りを将来に伝えていくために多くの人に見てもらい、その中から関わる人が現れてくれれば」と願いを語った。

(2024年9月7日付 読売新聞朝刊より)

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