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2024.5.10

【復興の光4】七尾和ろうそく(石川県七尾市)― 手作りの伝統 炎は消えず

北陸の伝統的工芸品 生産地復活へ 力強く歩む

「高澤商店」の七尾和ろうそく。季節の花を鮮やかに描く(石川県七尾市で)=後藤嘉信撮影

能登半島地震は、伝統工芸の産地・北陸地方に大きな被害をもたらした。なかでも石川県は国指定の伝統的工芸品10種を含む多くの工房、職人が制作の場を失い、住む場所にも不自由を強いられている。唯一の生産者として伝統を守り継ぐ、七尾和ろうそくと能登上布は全国からの支援の注文に応えようと制作を再開した。壊滅的な打撃を被った珠洲すず焼、輪島塗は、展覧会を開催して健在をアピールし、危機を生かして再建へ歩み始めた。九谷焼の赤絵作家は、地震後に入門した若い後継者に未来を託す。官民の支援を支えに生産地の復活への長い道のりが始まった。

石川県指定の稀少きしょう伝統的工芸品「七尾和ろうそく」を製造・販売する「高澤商店」(七尾市)は、被災後2か月余を経て〔2024年〕3月14日、仮店舗のオープンにこぎつけた。例年なら1月4日が仕事始めだが、店舗と製造工場が被災した。

5代目の高澤久代表(51)は「久しぶりに店を訪ねてくれたお客さんから、これからも頑張って作り続けてほしいと励まされたり、地域の人と暮らしの情報を交換し合ったり。店は商品を販売するだけでなく、大切なコミュニケーションの場であるとあらためて感じました」と語る。

芯も伝統的な材料で作られている

七尾和ろうそくは江戸時代、領主の前田家が各地から職人を集めた「蝋燭ろうそく座」をつくり、ろうそく作りを推奨したのが始まりとされる。江戸時代から明治にかけ北前船の寄港地でもあったため、各地の原料を取り寄せ、出来上がったろうそくを各地に出荷した。

和ろうそくは植物の実などから取ったろうと、芯に和紙などを使った日本古来の手作り。中心の空洞から空気を吸い上げる構造で、炎が大きく風に強く、煙が少ないのが特徴だ。

型から取り出したろうそくの形を整える

ただ、石油を原料とする安価な洋ろうそくが主流となり、和ろうそくの生産は全国で激減、石川県では1892年創業の高澤商店1軒だけになった。

被災後、15人の社員の無事を確認、1月9日から出勤できる社員と再開に向けて工場の片付けから始めた。作業機械の調整、ガスの検査、配管の修理などを終え、同19日には、蝋を溶かすかまどに火を入れた。工場の設備は復旧したが、被災した社員が通常の勤務に戻るまで、生産は従来の8~9割にとどめている。 

仮店舗で営業する高澤代表

仮店舗の窓には全国から寄せられた激励のメッセージをびっしりと貼り出している。これらの一つ一つが再開に向けて大きな力になったという。

高澤さんは「和ろうそくの炎の揺らめきを見ていると、落ち着いて元気が出ます。素晴らしさを多くの人に知ってほしい」と力を込めた。

(2024年月5日付 読売新聞朝刊より)

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