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2024.8.23

【伝統文化を子どもたちへ2】伝統工芸品・幼少期から 

手のひらのスマートフォン一つで、何でも体験でき、手に入れることができる。現代の子どもたちは、そう錯覚していないだろうか。本来は、手や体を動かし、五感を総動員してこそ、本当の感動が得られるはず。その本質が詰まった伝統芸能や伝統工芸に、生き生きと取り組む子どもたちの姿を追った。

琉球ガラス・津軽塗・小石原焼のコップ

2歳の男の子がガラスのコップを両手でしっかり持ち、口元に持っていく。縁には段差がついているため、指が引っかかって落としにくい。口径が小さいのも、視界を妨げず不安にさせない工夫なのだという。

「和える」が展開する「こぼしにくいコップ」シリーズ。琉球ガラス(手前)、小石原焼(左と奥)、津軽塗(右)=野口哲司撮影

える」(本社・東京都品川区/京都市)という会社が企画販売する「こぼしにくいコップ」。赤ちゃんの頃から伝統工芸品に親しんでほしいと、産地と共同開発した。様々な素材やデザインを楽しめるよう、琉球ガラス(沖縄県)、津軽塗(青森県)、小石原焼(福岡県)のラインアップがある。

「こぼしにくいコップ」(琉球ガラス)を使用する幼児。持ちやすく顔が隠れない大きさだ

同社の森恵理佳さん(35)は、自宅で3歳の娘にもこのコップを使わせてきたという。「娘は、ガラスのコップがお気に入りだったのですが、割ってしまった。壊れるという概念が理解できず、使えなくなったことが分かると大泣きしました。半年後、漆器のコップを落とした時は割れず、そこで素材の違いを知りました。でも、また落としてしまったことを反省し、今度は手の当たらない場所に置くなど工夫をするようになりました」と笑顔で振り返る。

「こぼしにくい器シリーズ」は全国八つの生産地と共同開発している

同社は、社長の矢島里佳さん(36)が慶応大在学中の2011年3月に起業した。矢島さんは学生時代に伝統工芸の職人を取材し、日本人の自分が工芸の魅力を知ってこなかったことを痛感。そのため、幼少期から日本の伝統に出会える環境を作り出す必要があると考えたという。

同社は他にも、砥部焼(愛媛県)、山中漆器(石川県)、益子焼(栃木県)などの「こぼしにくい器」シリーズや、前掛けやタオルなど、赤ちゃんの時から使える生活用品を30種類以上手がけてきた。

さらに、日本の伝統を教育、観光にも取り入れる企画など事業の多角化も進める。今年〔2024年〕6月にはJTBと共同の新規事業として、中高生が京都で伝統産業に従事する人に出会える探究型の修学旅行プログラムを発表した。「通常の修学旅行では足を踏み入れないような工房で話を聞き、職人の方の生きざまを学んでもらう」と森さん。「日本の伝統を次世代につなぐ」を社の目標に掲げ、様々な施策に取り組んでいる。

(2024年8月17日付 読売新聞朝刊より)

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