〔2025年〕4月13日に開幕した大阪・関西万博。会場では、世界的な課題の解決に向け、先端技術などが発信される一方、伝統文化に触れてもらう企画も数多くみられます。これまでの万国博覧会も、古美術を保護する契機や、工芸の技を世界に披露するきっかけとなってきました。今回の紡ぐプロジェクトでは、万国博覧会と文化財のかかわりの歴史をひもときます。
大阪・関西万博会場内を歩くと、意匠を凝らした建物が並ぶ中、ひときわ映える
手がけたのは、帯や着物で知られる西陣織の可能性を切り開いてきた老舗織元「細尾」(京都市)。「頂上の見えない山を探りながら登るような気持ちでした」と、細尾真孝社長は振り返る。
パビリオンは、住宅大手の飯田グループホールディングスと大阪公立大が共同出展。屋内には二酸化炭素を活用して住宅のエネルギー創出を目指す技術や、AI(人工知能)が健康維持を促す住宅など、一歩先の健やかな生活を感じさせる展示が広がる。
健康で安全・快適な未来の社会を描くパビリオンの象徴が、この建物だ。設計は建築家で京都大名誉教授の高松伸さんで、メビウスの輪をモチーフに持続や循環、継承といった思いを込めた。
建築の外壁という前代未聞の西陣織。風雨や火などに備えるために様々な素材の組み合わせを検討したり、柄を立体的に見せるために専用のソフトウェア開発をしたりと試行錯誤を繰り返した。「機能性だけでなく、糸一本一本の織りから生まれる美しさにこだわりたかった。一見伝統的な柄ですが、裏にはとてつもないテクノロジーを組み合わせている」と細尾社長。
外壁は表面積約3000平方メートルにも及び、「世界最大の西陣織で包まれた建物」としてギネス記録に認定。出入り口付近で触ることもできる。「長い歴史の中で人のそばにあった西陣織は心を動かし、晴れやかにする力がある。AIなどが進む今、職人の手によって生み出されるものの重要性はより大きくなっているはず」と語っている。
大阪・関西万博では、石川県の伝統工芸、加賀友禅の着物をまとったアンドロイドも登場している。
鮮やかな色彩の友禅を着ているのは、子ども型のアンドロイド「Yui」。アンドロイド研究の第一人者、石黒浩・大阪大教授がプロデュースするテーマ館「いのちの未来」の出口で来館者をお見送りしている。
着物は、金沢市の加賀友禅工房「
50年後の未来を描くという発想で、Yuiはジェンダーレスな存在。そのため、オリジナルの色柄を考案し、男性・女性向けを織り交ぜた着付けにした。また、機械の排熱を考えた特別な構造も施した。「ちょっとした違いが積み重なって難しかったが、世界中の方、文化の違う方に見ていただけるのはうれしい」と毎田さんは話す。
2体のアンドロイド用の2種類の友禅の一つ「羽音」には、能登半島の復興を願って再生などを象徴する
もう一方の「青の祈り」では、同工房の独自技法で水しぶきのような絵柄を表現。この技法で毎田さんが制作した別の着物は、第1回のロンドン万博(1851年)の収益をもとに開館した英国立ビクトリア&アルバート美術館に永久収蔵されることが決まった。縁を感じてYuiの着物にも、同じ技法を取り入れたのだという。
材料の
(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)
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