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2025.5.10

【万博と文化財 深いかかわり】2025年大阪・関西万博 ― 外壁に西陣織 「美しさの裏に最新技術」

2025年大阪・関西万博

大阪・関西万博の開会式では、尾上菊之助さんら歌舞伎俳優や太鼓芸能集団「鼓童」が日本らしい伝統の芸で彩りを添えた(4月12日)

〔2025年〕4月13日に開幕した大阪・関西万博。会場では、世界的な課題の解決に向け、先端技術などが発信される一方、伝統文化に触れてもらう企画も数多くみられます。これまでの万国博覧会も、古美術を保護する契機や、工芸の技を世界に披露するきっかけとなってきました。今回の紡ぐプロジェクトでは、万国博覧会と文化財のかかわりの歴史をひもときます。

大阪・関西万博会場内を歩くと、意匠を凝らした建物が並ぶ中、ひときわ映える緋色ひいろのパビリオンが目に飛び込んでくる。優美な曲線を帯びた高さ約13メートル、長径約64メートルの楕円だえん形の建物。外観を覆うのは、桜柄をちりばめた高級織物・西陣織だ。

西陣織で覆われた「飯田グループ×大阪公立大学共同出展館」=いずれも浜井孝幸撮影

手がけたのは、帯や着物で知られる西陣織の可能性を切り開いてきた老舗織元「細尾」(京都市)。「頂上の見えない山を探りながら登るような気持ちでした」と、細尾真孝社長は振り返る。

パビリオンは、住宅大手の飯田グループホールディングスと大阪公立大が共同出展。屋内には二酸化炭素を活用して住宅のエネルギー創出を目指す技術や、AI(人工知能)が健康維持を促す住宅など、一歩先の健やかな生活を感じさせる展示が広がる。

健康で安全・快適な未来の社会を描くパビリオンの象徴が、この建物だ。設計は建築家で京都大名誉教授の高松伸さんで、メビウスの輪をモチーフに持続や循環、継承といった思いを込めた。

■表面積3000平方メートル 

建築の外壁という前代未聞の西陣織。風雨や火などに備えるために様々な素材の組み合わせを検討したり、柄を立体的に見せるために専用のソフトウェア開発をしたりと試行錯誤を繰り返した。「機能性だけでなく、糸一本一本の織りから生まれる美しさにこだわりたかった。一見伝統的な柄ですが、裏にはとてつもないテクノロジーを組み合わせている」と細尾社長。

外壁は表面積約3000平方メートルにも及び、「世界最大の西陣織で包まれた建物」としてギネス記録に認定。出入り口付近で触ることもできる。「長い歴史の中で人のそばにあった西陣織は心を動かし、晴れやかにする力がある。AIなどが進む今、職人の手によって生み出されるものの重要性はより大きくなっているはず」と語っている。

高さ約13メートル。外壁の表面積は3000平方メートルを超え、ギネス記録に認定された
高さ約13メートル。外壁の表面積は3000平方メートルを超え、ギネス記録に認定された
西陣織が鮮やかなパビリオン。「建築だが着物でもある」(細尾社長)といい、触ることもできる
◆加賀友禅の着物姿 アンドロイドお見送り 

大阪・関西万博では、石川県の伝統工芸、加賀友禅の着物をまとったアンドロイドも登場している。

大阪・関西万博ではテーマ館「いのちの未来」で、加賀友禅を着たアンドロイド「Yui」が来館者を見送る

鮮やかな色彩の友禅を着ているのは、子ども型のアンドロイド「Yui」。アンドロイド研究の第一人者、石黒浩・大阪大教授がプロデュースするテーマ館「いのちの未来」の出口で来館者をお見送りしている。

着物は、金沢市の加賀友禅工房「毎田まいだ染画工芸」の作家、毎田仁嗣ひとしさん(50)が手がけた。昨秋に依頼を受け、厳しいスケジュールの中、Yuiの開発者である電気通信大(東京都調布市)、仲田佳弘准教授の研究室に5回も通ったという。

50年後の未来を描くという発想で、Yuiはジェンダーレスな存在。そのため、オリジナルの色柄を考案し、男性・女性向けを織り交ぜた着付けにした。また、機械の排熱を考えた特別な構造も施した。「ちょっとした違いが積み重なって難しかったが、世界中の方、文化の違う方に見ていただけるのはうれしい」と毎田さんは話す。

2体のアンドロイド用の2種類の友禅の一つ「羽音」には、能登半島の復興を願って再生などを象徴する鳳凰ほうおうや、生命力を表すイチョウをあしらった。

もう一方の「青の祈り」では、同工房の独自技法で水しぶきのような絵柄を表現。この技法で毎田さんが制作した別の着物は、第1回のロンドン万博(1851年)の収益をもとに開館した英国立ビクトリア&アルバート美術館に永久収蔵されることが決まった。縁を感じてYuiの着物にも、同じ技法を取り入れたのだという。

材料ののりづくりには、金沢市の小学生14人が参加した。「子どもたちには地域の伝統を知ったうえで未来を描いてもらいたい」と、毎田さんは語っている。

友禅着物「羽音」(左)と「青の祈り」をまとったアンドロイドの Yui 。会期中は、2体が交代で来館者をお見送りする=電気通信大学 仲田研究室提供

(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)

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