〔2025年〕4月13日に開幕した大阪・関西万博。会場では、世界的な課題の解決に向け、先端技術などが発信される一方、伝統文化に触れてもらう企画も数多くみられます。これまでの万国博覧会も、古美術を保護する契機や、工芸の技を世界に披露するきっかけとなってきました。今回の紡ぐプロジェクトでは、万国博覧会と文化財のかかわりの歴史をひもときます。
文化財保護の体制の整備には、意外にも万国博覧会が大きな役割を果たした。
明治新政府が初めて参加したのは、1873年のウィーン万博。中野
76年のフィラデルフィア万博、78年のパリ万博では、博覧会が産業や貿易の振興に効果があると認識された。輸出品の品質向上と販売促進が国家戦略となり、古美術は芸術や製品の模範として重視された。
82年には、絵画振興や輸出促進を目標に、政府が史上初の全国絵画公募展「内国絵画共進会」を開き、参考に古い絵画も時代順に展示した。このことは古美術の劣化の深刻さが知られるきっかけにもなり、翌年、「平家納経」(現在は国宝)などが修理されるなど、古美術保護を進める動きも広まった。
87年には政府が、多くの古美術が伝来する近畿地方の調査を開始、88年には臨時全国宝物取調局が設置され、全国の古美術が台帳に登録された。
そうした調査研究の成果の一つが、93年のシカゴ万博の日本パビリオン。平等院鳳凰堂をモデルとした伝統建築で「鳳凰殿」と名付けられ、内部には平安、室町、江戸時代の様子が再現された。同年5月6日の読売新聞朝刊は「鳳凰殿は評判最も
「古美術の把握や評価が万博をきっかけに飛躍的に進み、日本美術の研究と、古美術の保護を大きく促した」と中野さん。
97年には「国宝」の保護と活用を定めた古社寺保存法が制定された。1900年のパリ万博では日本美術を周知するため、帝国博物館が美術史の編さんを担当し、同年にフランス語版「Histoire de l‘Art du Japon」が、翌年に日本語版「稿本日本帝国美術略史」が刊行された。万博会場では「
現代の文化財保護法のもとでは国宝は「世界文化の見地から価値の高いもので、国民の宝」と位置づけられる。中野さんは「国際社会の舞台となる万博ごとに、日本の歴史、地理、産業、文化などの把握が重視された。その知見は文化財保護の基盤にもなり、現在の文化財保護法に発展した」と説明する。
大阪・関西万博の開催に合わせ、国宝、重要文化財などを集めた特別展が関西地区の美術館・博物館で開かれている。
◆「日本国宝展」(読売新聞社など主催)
6月15日まで、大阪市立美術館(大阪市天王寺区)で開催中。130件以上の国宝を一堂に展示。「紡ぐプロジェクト」で修理を実施した「扇面法華経冊子」(国宝)、「黒漆平文大刀拵 」(同、展示は5月20日から)なども公開している。
◆「日本、美のるつぼ ―異文化交流の軌跡―」
6月15日まで、京都国立博物館(京都市東山区)で開催中。
◆「超 国宝―祈りのかがやき―」
6月15日まで、奈良国立博物館(奈良市)で開催中。
(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)
◇特別展「日本、美のるつぼ」出品作で、過去の万博で展示された作品は以下のとおりです。※展示期間などは特別展公式サイトでご確認ください。
●シカゴ万博出品
No.19 上絵金彩龍鳳文獅子鈕飾壺
No.20 江之島蒔絵額
No.21 銅鷲置物
●サンフランシスコ万博
No.22 銅蝦蟇仙人像
●ウィーン万博出品
No.4 色紙団扇散蒔絵料紙・硯箱
●パリ万博出品
No.27 観音菩薩立像
No.34 真山水図
No.64 宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱
◇特別展「超 国宝」に出品されている「菩薩半跏像」は、模刻がセビリア万博(1992年)で展示されました。
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