日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2025.5.10

【万博と文化財 深いかかわり】万博 文化財保護の礎に — 日本美術研究と古美術保護促す

2025年大阪・関西万博

〔2025年〕4月13日に開幕した大阪・関西万博。会場では、世界的な課題の解決に向け、先端技術などが発信される一方、伝統文化に触れてもらう企画も数多くみられます。これまでの万国博覧会も、古美術を保護する契機や、工芸の技を世界に披露するきっかけとなってきました。今回の紡ぐプロジェクトでは、万国博覧会と文化財のかかわりの歴史をひもときます。

大きな役割

文化財保護の体制の整備には、意外にも万国博覧会が大きな役割を果たした。

明治新政府が初めて参加したのは、1873年のウィーン万博。中野慎之のりゆき・文化庁文化財調査官によると、その準備のなかで国内の調査が進められ、新設された博物館(後の東京国立博物館)の収蔵品収集や、政府による初の博覧会「湯島聖堂博覧会」の開催、古美術の調査などにつながった。

76年のフィラデルフィア万博、78年のパリ万博では、博覧会が産業や貿易の振興に効果があると認識された。輸出品の品質向上と販売促進が国家戦略となり、古美術は芸術や製品の模範として重視された。

82年には、絵画振興や輸出促進を目標に、政府が史上初の全国絵画公募展「内国絵画共進会」を開き、参考に古い絵画も時代順に展示した。このことは古美術の劣化の深刻さが知られるきっかけにもなり、翌年、「平家納経」(現在は国宝)などが修理されるなど、古美術保護を進める動きも広まった。

特別展「日本国宝展」(大阪市立美術館)に展示中の「孔雀明王像」(平安時代、東京国立博物館蔵)も1900年パリ万博に出品された=河村道浩撮影 ※展示は5月18日まで
1900年パリ万博に出品された普賢菩薩ぼさつ騎象像(国宝、平安時代、東京・大倉集古館蔵)も、特別展「日本国宝展」に展示中
美術史を編さん 

87年には政府が、多くの古美術が伝来する近畿地方の調査を開始、88年には臨時全国宝物取調局が設置され、全国の古美術が台帳に登録された。

そうした調査研究の成果の一つが、93年のシカゴ万博の日本パビリオン。平等院鳳凰堂をモデルとした伝統建築で「鳳凰殿」と名付けられ、内部には平安、室町、江戸時代の様子が再現された。同年5月6日の読売新聞朝刊は「鳳凰殿は評判最もよろしく其他そのた我国より出品せしものは概して好評なり」と伝えている。

1893年のシカゴ万博で建築された初の本格的日本館「鳳凰殿」(国立国会図書館ウェブサイトから)
1893年のシカゴ万博の日本パビリオン「鳳凰殿」。平等院鳳凰堂をモデルとし、内部には平安、室町、江戸時代の様子が再現された(国立国会図書館ウェブサイトから)

「古美術の把握や評価が万博をきっかけに飛躍的に進み、日本美術の研究と、古美術の保護を大きく促した」と中野さん。

97年には「国宝」の保護と活用を定めた古社寺保存法が制定された。1900年のパリ万博では日本美術を周知するため、帝国博物館が美術史の編さんを担当し、同年にフランス語版「Histoire de l‘Art du Japon」が、翌年に日本語版「稿本日本帝国美術略史」が刊行された。万博会場では「孔雀くじゃく明王像」(現在は国宝)などの古美術約800点が展示された。

特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」(京都国立博物館)で展示中の「Histoire de l‘Art du Japon」(「日本美術史」)千九百年巴里万国博覧会臨時博覧会事務局編 明治33年(1900) 京都国立博物館蔵 通期展示 ※頁替あり
パリ万博に際して編さんされた「Histoire de l‘Art du Japon」(「日本美術史」)千九百年巴里万国博覧会臨時博覧会事務局編 明治33年(1900) 京都国立博物館蔵 特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」(京都国立博物館)で公開中。通期展示 ※頁替あり

現代の文化財保護法のもとでは国宝は「世界文化の見地から価値の高いもので、国民の宝」と位置づけられる。中野さんは「国際社会の舞台となる万博ごとに、日本の歴史、地理、産業、文化などの把握が重視された。その知見は文化財保護の基盤にもなり、現在の文化財保護法に発展した」と説明する。

中野慎之・文化庁文化財調査官

大阪・関西万博の開催に合わせ、国宝、重要文化財などを集めた特別展が関西地区の美術館・博物館で開かれている。


「日本国宝展」(読売新聞社など主催)
6月15日まで、大阪市立美術館(大阪市天王寺区)で開催中。130件以上の国宝を一堂に展示。「紡ぐプロジェクト」で修理を実施した「扇面法華経冊子」(国宝)、「黒漆平文大刀拵くろうるしひょうもんたちこしらえ」(同、展示は5月20日から)なども公開している。
「日本、美のるつぼ ―異文化交流の軌跡―」
6月15日まで、京都国立博物館(京都市東山区)で開催中。
◆「超 国宝―祈りのかがやき―」
6月15日まで、奈良国立博物館(奈良市)で開催中。

(2025年5月4日付 読売新聞朝刊より)

◇特別展「日本、美のるつぼ」出品作で、過去の万博で展示された作品は以下のとおりです。※展示期間などは特別展公式サイトでご確認ください。
●シカゴ万博出品
No.19 上絵金彩龍鳳文獅子鈕飾壺
No.20 江之島蒔絵額
No.21 銅鷲置物
●サンフランシスコ万博
No.22 銅蝦蟇仙人像
●ウィーン万博出品
No.4 色紙団扇散蒔絵料紙・硯箱
●パリ万博出品
No.27 観音菩薩立像
No.34 真山水図
No.64 宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱

◇特別展「超 国宝」に出品されている「菩薩半跏像」は、模刻がセビリア万博(1992年)で展示されました。

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