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2019.9.24

【国際交流員ご当地リポート】別府の竹細工:竹が生い茂るように 息づく伝統工芸

大分県別府市国際交流員 エラ・ドナルドソンさん

竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション ―メトロポリタン美術館所蔵

別府は古くから温泉地として知られていますが、それ以前から、竹細工の拠点であり続けてきました。このことは、日本最初の歴史書である日本書紀にも書かれています。第12代天皇(景行天皇)が九州南部で熊襲くまそを征伐した帰りに立ち寄った別府で、お供の台所方が良質の竹がふんだんにあることに気づき、籠を編んだといった記述があるそうです。これが別府の竹細工の始まりとされています。

江戸時代になると、別府の温泉はすっかり有名になりましたが、全国から人々が訪れるようになるに連れ、ちまたで売られている美しい竹細工が知られるようになりました。需要が高まり、竹細工は地場産業に発展しました。

竹工芸名品展:ニューヨークのアビー・コレクション ―メトロポリタン美術館所蔵

1967年には、生野しょうの祥雲斎しょううんさいが竹工芸では初めて「人間国宝」(重要無形文化財保持者)に認定され、79年には、別府竹細工そのものが「伝統的工芸品」に指定されました。

別府竹細工は8種類の基本的な技法が指定されています。

  • 四つ目編み(編み目が正方形になる)
  • 六つ目編み(編み目が六角形になる)
  • 八つ目編み(編み目が八角形になる)
  • 網代編み(竹ひごを隙間なく編む)
  • ござ目編み(ござのようになる編み方)
  • 松葉編み(薄く、松葉のようになる編み方)
  • 菊底編み(菊の花のようになる編み方)
  • 輪弧編み(放射線状に編む)

竹は工芸品と同様、紙、レーヨン、竹炭、活性炭などの良質な資源にもなり、石炭の70%、石油の50%という発熱量を有しています。そのため、持続可能な燃料にもなり得ます。また、竹の成長は非常に早く、発芽から成竹になるまで2~3か月しかかかりません。そして、竹の根は広範囲に拡がり、樹木以上に強く土壌に根を張るため、竹林は土砂崩れを防ぐ役目も果たします。

素材としては、硬そうに見えますが、実はしなやかで、縦に細く割って竹ひごにすれば、工芸に使えます。工芸品は、青竹でも、加工された竹でも作ることができます。竹を加工するには、油を抜いて日にさらし、白竹にします。そうすれば、染色したり、漆塗りを施したりすることができます。青竹で作った工芸品は青物、加工された竹(白竹)で作られたものは白物、染めたり、漆を塗ったりしたものは黒物と呼ばれています。

大分県はマダケの生産量が全国一

世界には約1,200種類の竹がありますが、日本にはそのうち約600種類があります。ただ、日本の竹の9割はマダケ、孟宗竹もうそうちく淡竹はちくのうちのいずれかです。大分県は、日本で最も豊富なマダケの生産量では全国一です。別府では、主にマダケと孟宗竹、それに黒竹くろちくと呼ばれる別の種類の竹を工芸品に使っています。

1938年に開設された大分県立竹工芸訓練センターは、竹工芸の後継者を育成する唯一の公的教育機関で、竹工芸をマスターしようという人たちが全国各地から集まってきます。2013年には、1年制から2年制に移行しました。竹細工を学びたい人たちのため2年間のコースがスタートしました。1年生の4~5月の最初の2か月間は、竹の加工方法を主に教わりますが、6月からは月ごとに課題が与えられます。別府市竹細工伝統産業会館(1994年開館)もあって、竹を使った道具や歴史に残る作品が展示されているほか、竹の教室も開催されています。

別府市竹細工伝統産業会館

別府市竹細工伝統産業会館で現在講師を務めているのは、伝統工芸士の油布昌伯さんです。祥雲斎が師事した佐藤竹邑斎ちくゆうさいの弟子だった油布竹龍を父に持つ2代目の竹工芸家だそうです。昌伯さんは小学生だった頃に工芸品(竹籠)を作り始め、中学校時代には名人の域に達し、別府で評判となる様々なスタイルの花籠を作るようになりました。近頃は、竹の根などを使った大胆な作風の籠がよく知られています。

別府市竹細工伝統産業会館 で講師を務める伝統工芸士の油布昌伯さん

別府は毎年、若い工芸士を輩出し続けているという点で、日本ではほかにあまり例のない都市と言えます。その若い工芸士たちはまた、斬新な作品を生み出すことによって、長く続いてきた伝統を維持しています。こうして、別府の竹細工は、竹が生い茂るように、いつまでも発展し続けることができるのです。

(協力:自治体国際化協会、写真はエラ・ドナルドソンさん提供) 

エラ・ドナルドソン

プロフィール

    

大分県別府市国際交流員

エラ・ドナルドソン(Ella Donaldson)

英国ポーツマス出身。別府市役所の国際交流員(CIR)としては2年目。英語を話す外国人のために市役所の様式や書類を翻訳したり、英文書類をネイティブとして校正したり、地元のイベントをPRしたりすることが主な職務。

寄稿を募集しています

「国際交流員ご当地リポート」は随時、「語学指導等を行う外国青年招致事業」(JETプログラム)で各地に派遣されている国際交流員(CIR)からの寄稿文(英文)を募集しています。地方の魅力を広く内外に伝えるツールとして「紡ぐ TSUMUGU: Japan Art & Culture」をご利用いただきたいからです。寄稿をご希望される場合は、CIRの任用団体(担当課)から 紡ぐプロジェクト事務局(担当:松浦) までご連絡ください。 

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