昨年まで、つまり平成の
さかのぼること80余年、昭和の時代、昭和8年(1933年)のこの日は「何となく心躍る」、などという生易しいレベルではなく、日本中が喜びに満ちてあふれていた。待ちわびた皇太子さま(上皇さま)の誕生の報に接したからである。
昭和天皇と皇后は大正13年(1924年)1月26日に結婚された。その後、大正14年(1925年)に
ようやく結婚10年目、第5子にして、初めての男子・皇太子が誕生したのである。皇室・宮内省のみならず、国内の喜びの沸き立ち方は並々ならぬものがあった。新聞はもちろん号外を出し、その社屋もイルミネーションを施し、街には電飾をした花電車が走り、人びとは
さらには、同じ日に生まれた男子に記念のメダルが贈呈されたり、北原白秋作詞・中山晋平作曲の『皇太子さまお生まれなつた』が制作されたり、横山大観から絵画が献上されたり、その他、お祝い案件は枚挙に
誕生した皇太子さまのご称号は「
「お印」とは皇族・華族が、記名の代わりとして、身の回りの品につける印章のことである。その昔、高貴な人に仕える人々が、高貴な方の名前を直接口にするのは畏れ多い、ということでできた風習という。
お印は植物にまつわるものがよく用いられ、男性皇族は植物、女性皇族は花であることが多い。例えば昭和天皇のお印は「
上皇陛下のお印「榮」は文字で、「草花が盛んに茂る様子」を意味する。明治天皇のお印も文字の「永」で、大正天皇もやはり文字「壽」であった。その他、彬子女王殿下の「雪」、瑶子女王殿下の「星」といった植物ではないが、とてもキラキラしたものもある。お印はボンボニエールの意匠に欠かせないアイテムなので、お印については、今後も頻繁にお話しすることになる。
皇太子殿下御誕生を
そして、皇太子さま御誕生
室町時代以降、公家や武家の間では、出産にあたって産室に「
今年、上皇さまは86歳になられる。いつまでもお健やかにお過ごしいただけますように、心よりお祈り申し上げます。
プロフィール
学習院大学史料館学芸員
長佐古美奈子
学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。
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